政略結婚は純愛のように~狼社長は新妻を一途に愛しすぎている~
 初めてのキスはブランデーの香りがした。
 由梨は酒に弱いたちではない。
 趣味がなかった父博史の唯一の楽しみであった夜の晩酌には出来る限り付き合った。
 だから、ブランデーの香りくらいで酔うはずなどないのに…。
 触れられたそこから熱が広がって、くらくらと目眩を起こしそうだった。
 目はいつのまにか閉じていたらしい。
 頬に添えられた大きな手と意外なほど柔らかい彼の唇を、暗い中でとても心地よく感じた。
 ふとその柔らかさが離れた気がして目を開くと、狼の瞳が由梨を射抜くように見ている。

「あ…。」

 意識せずに、由梨の口から声が漏れた。
 加賀はその形のいい眉を寄せて何かを堪えるような表情を浮かべている。

(今、キス…した…?)

 ついこの前まで上司としてしか見ていなかった相手と。
 信じられないと思うけれど、一方でいつかこうなるんじゃないかとも思っていた。
 アルファーに魅入られては、逃げられない。

「由梨…。」

 加賀の低い声がぼんやりとしてうまく働かない由梨の脳に直接響く。

「俺の妻になれ。」

 彼の言葉が頭の中でその意味をゆっくりと形作っていく。
 それを理解するよりも早く、こくんと由梨は頷いた。
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