政略結婚は純愛のように～狼社長は新妻を一途に愛しすぎている～

「おかえりなさいませ。お出迎えもせず申し訳ありません。」

　蜂須賀室長が頭を下げて加賀を出迎える。

「いや、当然だ。気にしないでくれ。」

加賀はふるりと首を振ってコートを脱ぐ。
漆黒の、男性にしてはやや長めの髪についていた雫がキラリと光る。
　由梨が受け取るとコートは雪が溶けてしっとりと湿っていた。

「知らせなくてすまない。…急用ができてね。」

加賀が蜂須賀へ向けて言う言葉が耳に入り、由梨は彼のコートをハンガーに掛けようとしていた手を止めた。
加賀が言う＂急用＂と言うのが自分に関わることのような気がしたからだ。

「…来週水曜の午後に記者会見を行う。場所はニュースカイホテルだ。準備を頼む。」

「では…今井社長の後任が…？」

　蜂須賀がやや声を落として尋ねる。
　加賀は無言で頷いた。
　そしてコートを手に持ったまま体を強張らせて彼を見ている由梨に静かな視線を向けた。

「…そのことで、話がある。今井君、今夜うちへ来てくれないか。」