政略結婚は純愛のように~狼社長は新妻を一途に愛しすぎている~
「今井さんは秘書室でもよく働いてくれていてメンバーからの評判もいいですよ。」
隆之はにこやかに言った。
「ずっといていただきたいくらいです。」
幸仁がそれを鼻で笑う。
由梨が北部支社でしっかりとその役割を果たしているなど夢にも思っていないようだ。
「彼女に…和也氏があれほどご執心とは驚きましたが、良い縁談はありそうですか。」
「ん…まぁ、なくはないが。姪たちの中ではあの子は立場が少々特殊だからな。あまり良いところだと他の姪たちがうるさいし、さりとて今井の名を傷つけるような所へはやれん。…難しいところだ。」
「そうですか。…では、こういうのはいかがでしょう。」
隆之は平静を装う自分の手のひらが、わずかに汗をかいていることに気がつく。
どんな修羅場も冷静に潜り抜けてきた自分が、信じられないことだが少し緊張しているようだ。
「…私と結婚していただくというのは。」
そう言って隆之は相手に強い視線を投げかけた。
こういう場面では決してへりくだってはダメだ。
たとえそれが見せかけだったとしても、相手にはこちらが優位だと思わせなくては。
隆之の言葉に幸仁はゲジゲジの眉をあげた。
「君と…?」
「そうです。私が…社長になることについての異論を抑えられるのではないかと思いまして。」
隆之はなんでもないことのように言って刺身を口に入れた。
そして優雅に微笑む。
隆之が社長になることについて、混乱が予想されるのは当然今井家の方だ。
こちらとしては親切で提案してるのだという姿勢を崩さないように。
こういう輩はこちらの弱みを見せると負けだ。
「そうか…なるほど。」
隆之の提案に幸仁はしばし考えこむ。
思ってもみない案だったようだが一考の余地ありというところだろう。
「ふむ。たしかに…。君が今井の遠戚関係になるのであれば、うるさい奴らも黙るということか…しかし君はそれでいいのか。加賀家ともなれば地元では縁を結びたい家は沢山あるだろに。」
隆之はゆっくりと咀嚼していた刺身を飲み込んだ。
「そうですね、少なからずありますよ。けれど、それもそれで厄介なものでして。どこかを選べば選ばなかったところに軋轢が生まれることが目に見えています。」
隆之は幸仁の視線を感じながら酒を煽る。
今井家の娘の相手として不足はないか値踏みされているのを肌で感じた。
「…ですから、私にとっても多少は都合の良い話なのです。」
隆之はどちらでも構わないという風を装う。
餌ができるだけ魅力的に見えるように…。
「今井さんのお嬢さんなら、皆納得しましょう。加賀家は今のところ婚姻を結んでまで縁つづきになるほど必要としている家はありませんから。」
「ふむ。」
そう言って幸仁はもう一度考え込んだ。
隆之は急かすことなくあとは食事を続ける。
商談は成立した。
隆之は幸仁に気づかれないようにほくそ笑む。
やがて食事が終わり茶が出てくる頃、幸仁が再び口を開いた。
「…さっきのことだが。」
「さっきの…?」
隆之は、わざととぼけてみせる。
「君と由梨のことだ。」
「あぁ…。」
思い出したように頷いた。
「話を進めてもらえるか。…なるべく早く。」
由梨の気持ちはどうだとは一言も言わないのがこの男らしい。
けれどそういう意味では自分も同じかと隆之は自嘲する。
成り行きとはいえ外堀から埋めるようなことをするなんて。
「いいのですか。」
大切な姪御さんの将来をそのように簡単に決めてしまわれて、と心にもないことを言ってみる。
「それは構わん…いや。もちろん由梨には幸せになってほしいと思ってはいる。今井に父にとっても末の可愛い孫だ。」
とってつけたように言うのが白々しい。
今頃になって彼女の価値をあげようと必死だ。
隆之は心の中で相手をせせら笑う。
「しかし、君なら不足はないだろう。…すぐにでも手配させる。」
「お待ちください。」
今すぐにでも由梨に電話をさせかねない男を隆之は慌てて止めた。
「由梨さんへはこちらから伝えさせていただきます。…まがりなりにも社内では部下になりますので。他の社員との兼ね合いもあります。…それから、発表も控えて下さい。…失礼ですが万が一にでも、その…和也氏が…。」
「あぁ。」
幸仁は舌打ちをした。
「そうだな。あいつが何かせんとも限らん。」
「式等についてもこちらで手配させていただきます。外部には漏れないように、和也氏にはだまし討ちのようなことになるかもしれませんが。…こちらにも煩い輩は多少はいるものですから。面倒ごとは嫌いでして。」
眉を寄せて心底うっとおしいという表情を浮かべるとあっさり幸仁は納得したようだ。
「わかった君に任せよう。」
隆之はにこやかに言った。
「ずっといていただきたいくらいです。」
幸仁がそれを鼻で笑う。
由梨が北部支社でしっかりとその役割を果たしているなど夢にも思っていないようだ。
「彼女に…和也氏があれほどご執心とは驚きましたが、良い縁談はありそうですか。」
「ん…まぁ、なくはないが。姪たちの中ではあの子は立場が少々特殊だからな。あまり良いところだと他の姪たちがうるさいし、さりとて今井の名を傷つけるような所へはやれん。…難しいところだ。」
「そうですか。…では、こういうのはいかがでしょう。」
隆之は平静を装う自分の手のひらが、わずかに汗をかいていることに気がつく。
どんな修羅場も冷静に潜り抜けてきた自分が、信じられないことだが少し緊張しているようだ。
「…私と結婚していただくというのは。」
そう言って隆之は相手に強い視線を投げかけた。
こういう場面では決してへりくだってはダメだ。
たとえそれが見せかけだったとしても、相手にはこちらが優位だと思わせなくては。
隆之の言葉に幸仁はゲジゲジの眉をあげた。
「君と…?」
「そうです。私が…社長になることについての異論を抑えられるのではないかと思いまして。」
隆之はなんでもないことのように言って刺身を口に入れた。
そして優雅に微笑む。
隆之が社長になることについて、混乱が予想されるのは当然今井家の方だ。
こちらとしては親切で提案してるのだという姿勢を崩さないように。
こういう輩はこちらの弱みを見せると負けだ。
「そうか…なるほど。」
隆之の提案に幸仁はしばし考えこむ。
思ってもみない案だったようだが一考の余地ありというところだろう。
「ふむ。たしかに…。君が今井の遠戚関係になるのであれば、うるさい奴らも黙るということか…しかし君はそれでいいのか。加賀家ともなれば地元では縁を結びたい家は沢山あるだろに。」
隆之はゆっくりと咀嚼していた刺身を飲み込んだ。
「そうですね、少なからずありますよ。けれど、それもそれで厄介なものでして。どこかを選べば選ばなかったところに軋轢が生まれることが目に見えています。」
隆之は幸仁の視線を感じながら酒を煽る。
今井家の娘の相手として不足はないか値踏みされているのを肌で感じた。
「…ですから、私にとっても多少は都合の良い話なのです。」
隆之はどちらでも構わないという風を装う。
餌ができるだけ魅力的に見えるように…。
「今井さんのお嬢さんなら、皆納得しましょう。加賀家は今のところ婚姻を結んでまで縁つづきになるほど必要としている家はありませんから。」
「ふむ。」
そう言って幸仁はもう一度考え込んだ。
隆之は急かすことなくあとは食事を続ける。
商談は成立した。
隆之は幸仁に気づかれないようにほくそ笑む。
やがて食事が終わり茶が出てくる頃、幸仁が再び口を開いた。
「…さっきのことだが。」
「さっきの…?」
隆之は、わざととぼけてみせる。
「君と由梨のことだ。」
「あぁ…。」
思い出したように頷いた。
「話を進めてもらえるか。…なるべく早く。」
由梨の気持ちはどうだとは一言も言わないのがこの男らしい。
けれどそういう意味では自分も同じかと隆之は自嘲する。
成り行きとはいえ外堀から埋めるようなことをするなんて。
「いいのですか。」
大切な姪御さんの将来をそのように簡単に決めてしまわれて、と心にもないことを言ってみる。
「それは構わん…いや。もちろん由梨には幸せになってほしいと思ってはいる。今井に父にとっても末の可愛い孫だ。」
とってつけたように言うのが白々しい。
今頃になって彼女の価値をあげようと必死だ。
隆之は心の中で相手をせせら笑う。
「しかし、君なら不足はないだろう。…すぐにでも手配させる。」
「お待ちください。」
今すぐにでも由梨に電話をさせかねない男を隆之は慌てて止めた。
「由梨さんへはこちらから伝えさせていただきます。…まがりなりにも社内では部下になりますので。他の社員との兼ね合いもあります。…それから、発表も控えて下さい。…失礼ですが万が一にでも、その…和也氏が…。」
「あぁ。」
幸仁は舌打ちをした。
「そうだな。あいつが何かせんとも限らん。」
「式等についてもこちらで手配させていただきます。外部には漏れないように、和也氏にはだまし討ちのようなことになるかもしれませんが。…こちらにも煩い輩は多少はいるものですから。面倒ごとは嫌いでして。」
眉を寄せて心底うっとおしいという表情を浮かべるとあっさり幸仁は納得したようだ。
「わかった君に任せよう。」