政略結婚は純愛のように~狼社長は新妻を一途に愛しすぎている~
初夜
加賀家の菩提寺での結婚式のあと市内のホテルで披露宴が行われた。
近年稀に見る大規模な披露宴で、注目されることに慣れていない由梨にとっては目がくらむほどの緊張の連続だった。
そしてもはや日付も変わらんとする頃、ようやく隆之と二人で加賀家の屋敷へと帰ってきた。
あらかじめまとめてあった由梨の荷物はすでに運びこまれているという。
格式高い門の前に立つと少し足が震えた。
ここへは何度か来たことがあるが今までとは全く気持ちが違っている。
今日からここが自分の家になるのだ。
とても信じられないことだけれど。
「どうした。」
門の前で立ち止まって動かない由梨を訝しんで先に行きかけていた隆之が振り返った。
「あの…。」
隆之が立ち止まって黙ったまま静かな眼差しで先を促す。
「今日は私…なんだか必死だったのですが…失礼の無いように振舞えていたでしょうか。…その、加賀家のしきたりやご親戚のことはきちんと予習したつもりですが…。」
由梨の言葉に、一瞬驚いたような表情を見せた隆之だったけれどすぐにふわりと笑った。
「まるで営業社員のプレゼンの後みたいだな。」
隆之は披露宴では散々酒を飲まされていたが少しも酔った様子がなかった。
けれどその笑顔があまりにも無防備で、やはり少し酔っているのだろうと由梨は思う。
それにしても隆之の笑顔には相変わらずどきりとさせられる。
「大丈夫だ、心配するな。皆、この歳になるまで売れ残っていた俺が手に入れたにしては若くて可愛らしい嫁だとびっくりしてたぞ。…よくやってくれた。ありがとう。」
やはり彼は酔っているらしい。
こんな軽口を叩くなんて。
由梨が知る限り、隆之の結婚には多くの女性が涙を飲んだはずだ。
"売れ残り"など最も彼に似合わない言葉だ。
そんな彼の軽口が少しおかしくて由梨はくすりと笑ってしまう。
披露宴ではおいしい地酒もたくさんでた。
由梨も少し酔ってしまったようだ。
隆之が眩しそうに目を細めた。
「…疲れたか。」
隆之が由梨を覗きこむ。
アーモンド色の瞳にじっと見つめられているとさらに身体の温度が上がるような気がして、由梨は首を振ることで彼の視線から逃げた。
けれどそれでかえって酔いが回ってしまったようだ。
くらくらと目眩がした。
「だ、大丈夫です…。」
そう言いながらも、ぐらりと身体を傾ける由梨を隆之が危なげなく受け止めた。
由梨の鼻先を隆之の香りがくすぐる。
図らずも熱くなった身体を彼に預けることになってしまった由梨はさらに頬を真っ赤に染める。
そんな由梨を隆之は躊躇なく抱き上げた。
「っ…!」
由梨は声にならない叫び声をあげる。
恥ずかしい、降ろしてほしいと思うのに、なぜか身体はふわふわとしてされるがままになってしまう。
「あの…。じ、自分で、あ、歩けます。下ろしてください。」
蚊の鳴くような声を絞り出して由梨は懇願する。
かぁっと全身が熱くなった。
けれど薄暗い中で隆之の瞳に射抜くように見つめられていることに気がつくと、黙りこんだ。
この瞳に見つめられるとなぜか逆らえななくなってしまう。
「…部屋へいこう。」
隆之の低い声が頭の中に甘く響いた。
近年稀に見る大規模な披露宴で、注目されることに慣れていない由梨にとっては目がくらむほどの緊張の連続だった。
そしてもはや日付も変わらんとする頃、ようやく隆之と二人で加賀家の屋敷へと帰ってきた。
あらかじめまとめてあった由梨の荷物はすでに運びこまれているという。
格式高い門の前に立つと少し足が震えた。
ここへは何度か来たことがあるが今までとは全く気持ちが違っている。
今日からここが自分の家になるのだ。
とても信じられないことだけれど。
「どうした。」
門の前で立ち止まって動かない由梨を訝しんで先に行きかけていた隆之が振り返った。
「あの…。」
隆之が立ち止まって黙ったまま静かな眼差しで先を促す。
「今日は私…なんだか必死だったのですが…失礼の無いように振舞えていたでしょうか。…その、加賀家のしきたりやご親戚のことはきちんと予習したつもりですが…。」
由梨の言葉に、一瞬驚いたような表情を見せた隆之だったけれどすぐにふわりと笑った。
「まるで営業社員のプレゼンの後みたいだな。」
隆之は披露宴では散々酒を飲まされていたが少しも酔った様子がなかった。
けれどその笑顔があまりにも無防備で、やはり少し酔っているのだろうと由梨は思う。
それにしても隆之の笑顔には相変わらずどきりとさせられる。
「大丈夫だ、心配するな。皆、この歳になるまで売れ残っていた俺が手に入れたにしては若くて可愛らしい嫁だとびっくりしてたぞ。…よくやってくれた。ありがとう。」
やはり彼は酔っているらしい。
こんな軽口を叩くなんて。
由梨が知る限り、隆之の結婚には多くの女性が涙を飲んだはずだ。
"売れ残り"など最も彼に似合わない言葉だ。
そんな彼の軽口が少しおかしくて由梨はくすりと笑ってしまう。
披露宴ではおいしい地酒もたくさんでた。
由梨も少し酔ってしまったようだ。
隆之が眩しそうに目を細めた。
「…疲れたか。」
隆之が由梨を覗きこむ。
アーモンド色の瞳にじっと見つめられているとさらに身体の温度が上がるような気がして、由梨は首を振ることで彼の視線から逃げた。
けれどそれでかえって酔いが回ってしまったようだ。
くらくらと目眩がした。
「だ、大丈夫です…。」
そう言いながらも、ぐらりと身体を傾ける由梨を隆之が危なげなく受け止めた。
由梨の鼻先を隆之の香りがくすぐる。
図らずも熱くなった身体を彼に預けることになってしまった由梨はさらに頬を真っ赤に染める。
そんな由梨を隆之は躊躇なく抱き上げた。
「っ…!」
由梨は声にならない叫び声をあげる。
恥ずかしい、降ろしてほしいと思うのに、なぜか身体はふわふわとしてされるがままになってしまう。
「あの…。じ、自分で、あ、歩けます。下ろしてください。」
蚊の鳴くような声を絞り出して由梨は懇願する。
かぁっと全身が熱くなった。
けれど薄暗い中で隆之の瞳に射抜くように見つめられていることに気がつくと、黙りこんだ。
この瞳に見つめられるとなぜか逆らえななくなってしまう。
「…部屋へいこう。」
隆之の低い声が頭の中に甘く響いた。