政略結婚は純愛のように~狼社長は新妻を一途に愛しすぎている~
隆之は、柔らかなベッドへ由梨を横たえるとため息をついた。
二人で使うための大きなベッドで彼女はスヤスヤとかわいい寝息を立てている。
火照って桃色に染まる柔らかな頬に手を当てると、冷たい隆之の手が心地よいのか由梨は、眠ったまま頬ずりをした。
隆之は目を細める。
疲れているのだろうと思った。
結婚式を加賀家のしきたりにのっとって行うということを由梨は意外なほどあっさりと承諾した。
煩い親戚たちにこのたびの結婚を認めさせるためには、隆之が今井家に取り込まれるのではなく、今井家の娘を加賀家に迎えるというのが最低条件だった。
結婚式をこちらの地元でしかも菩提寺で挙げることでそれを印象付けることができる。
もちろんそれがなくても説得はするつもりでいたが、由梨がそれを受け入れてくれたことによりひと手間省けたわけだ。
素直にありがたいと思った。
しかしそのように従順なところを見せた由梨は、加賀家側の招待客の招待状だけは自分で書くと言ってきかなかったそうだ。
「加賀家の親戚関係やお付き合い先を把握することができて一石二鳥だと仰いまして。」
短い準備期間で昼間は会社で通常の仕事をつつ、帰ってから寝る間を惜しんで仕上げたのだと秋元が誇らしげに言っていた。
その疲れが一気に出たのだろう。
ベッドの上の由梨は隆之が指で頬をなぞっても身じろぎもせずに眠りこけている。
初めて彼女を見たときはその初々しさの中にあるどこか大人びた眼差しが印象的だと思ったが、寝顔はむしろ幼子のようにあどけない。
隆之は少し開いた彼女のさくら色の唇にそっと口づけた。
柔らかなその感触に自らの欲望がむくむくと目を覚ますのを感じた。
しかし、このように眠っている彼女に襲いかかるわけにもいかない。
隆之はぶるりと首を振ると強靭な理性でもって己を抑え込んだ。
結婚式の場で花嫁に勧められる地酒の習慣を知りながら止めに入らなかったのは、彼女が案外と酒に強くまた好きなことを知っていたから。
沢山いる加賀家の親戚たちを把握したいという彼女の邪魔をしたくないという気持ちもあった。
けれど地酒に慣れていない彼女の中の適量を自分は見誤ったらしい。
今宵は、疲れと緊張がピークに達しているだろうということも失念していた。
隆之は心の中で舌打ちをして広いベッドの由梨の隣にあぐらをかいた。
けれど一方で、これで良かったのかもしれないとも思った。
由梨は加賀家に嫁ぐという覚悟はしたかもしれないが、本当の意味で隆之の妻になるということを理解していなかったように思う。
初夜の話を聞いたときのさっきの反応では、もしかしたら処女なのではとすら思う。
たいして親しくもなかった男に嫁ぎ、いきなり全てを受け入れさせるのは酷かもしれない。
隆之は由梨を見下ろして、眉を寄せる。
彼女に無理強いをしたくないという気持ちと、今すぐに自分のものにしたいという欲望。
二つの相反する気持ちが隆之の中にある。
はっきりとわかるのはそのどちらもが彼女を愛しいという思いからくるということだ。
隆之は、由梨の絹のような髪を撫でる。
初めて彼女を目にした時、雪の雫にしっとりと濡れる艶やかな髪をとても柔らかそうだと思った。
あの日は触れることができなかったこの髪に、今触れている。
(やっと、手に入れた。)
あせることはない。
隆之はそのサラサラとした黒い髪の感触をいつまでも楽しんでいた。
二人で使うための大きなベッドで彼女はスヤスヤとかわいい寝息を立てている。
火照って桃色に染まる柔らかな頬に手を当てると、冷たい隆之の手が心地よいのか由梨は、眠ったまま頬ずりをした。
隆之は目を細める。
疲れているのだろうと思った。
結婚式を加賀家のしきたりにのっとって行うということを由梨は意外なほどあっさりと承諾した。
煩い親戚たちにこのたびの結婚を認めさせるためには、隆之が今井家に取り込まれるのではなく、今井家の娘を加賀家に迎えるというのが最低条件だった。
結婚式をこちらの地元でしかも菩提寺で挙げることでそれを印象付けることができる。
もちろんそれがなくても説得はするつもりでいたが、由梨がそれを受け入れてくれたことによりひと手間省けたわけだ。
素直にありがたいと思った。
しかしそのように従順なところを見せた由梨は、加賀家側の招待客の招待状だけは自分で書くと言ってきかなかったそうだ。
「加賀家の親戚関係やお付き合い先を把握することができて一石二鳥だと仰いまして。」
短い準備期間で昼間は会社で通常の仕事をつつ、帰ってから寝る間を惜しんで仕上げたのだと秋元が誇らしげに言っていた。
その疲れが一気に出たのだろう。
ベッドの上の由梨は隆之が指で頬をなぞっても身じろぎもせずに眠りこけている。
初めて彼女を見たときはその初々しさの中にあるどこか大人びた眼差しが印象的だと思ったが、寝顔はむしろ幼子のようにあどけない。
隆之は少し開いた彼女のさくら色の唇にそっと口づけた。
柔らかなその感触に自らの欲望がむくむくと目を覚ますのを感じた。
しかし、このように眠っている彼女に襲いかかるわけにもいかない。
隆之はぶるりと首を振ると強靭な理性でもって己を抑え込んだ。
結婚式の場で花嫁に勧められる地酒の習慣を知りながら止めに入らなかったのは、彼女が案外と酒に強くまた好きなことを知っていたから。
沢山いる加賀家の親戚たちを把握したいという彼女の邪魔をしたくないという気持ちもあった。
けれど地酒に慣れていない彼女の中の適量を自分は見誤ったらしい。
今宵は、疲れと緊張がピークに達しているだろうということも失念していた。
隆之は心の中で舌打ちをして広いベッドの由梨の隣にあぐらをかいた。
けれど一方で、これで良かったのかもしれないとも思った。
由梨は加賀家に嫁ぐという覚悟はしたかもしれないが、本当の意味で隆之の妻になるということを理解していなかったように思う。
初夜の話を聞いたときのさっきの反応では、もしかしたら処女なのではとすら思う。
たいして親しくもなかった男に嫁ぎ、いきなり全てを受け入れさせるのは酷かもしれない。
隆之は由梨を見下ろして、眉を寄せる。
彼女に無理強いをしたくないという気持ちと、今すぐに自分のものにしたいという欲望。
二つの相反する気持ちが隆之の中にある。
はっきりとわかるのはそのどちらもが彼女を愛しいという思いからくるということだ。
隆之は、由梨の絹のような髪を撫でる。
初めて彼女を目にした時、雪の雫にしっとりと濡れる艶やかな髪をとても柔らかそうだと思った。
あの日は触れることができなかったこの髪に、今触れている。
(やっと、手に入れた。)
あせることはない。
隆之はそのサラサラとした黒い髪の感触をいつまでも楽しんでいた。