政略結婚は純愛のように~狼社長は新妻を一途に愛しすぎている~
再びの今井家
 祖父が死んだ。
 由梨はそれを勤務時間中にネットニュースで知った。
 今井コンツェルン前会長今井幸男は、先代が起こした事業を国内一と言われるまでにした男でその死は瞬く間に財界のみならず政界まで広く知れ渡る。
 死因は心不全。
 前日の夜いつものように大酒を飲み床についたと思ったらそのまま眠るようにして逝ったという。
 突然の一家の長の死に、本家、分家合わせると50人に上る今井家の面々は大あらわになり、直系の孫とはいえ、はみ出し者であった博史の子由梨への連絡は後回しになったわけだ。
 ぼんやりとパソコンの画面を見ていた由梨に、外にいた隆之から連絡が入り急ぎ荷物をまとめて東京へ行くように言われた。

「一週間忌引きで休ませるように蜂須賀には言ってある。付き添えなくて、申し訳ない。通夜と告別式には行くからそれまではよろしく頼む。」

 由梨は、電話の向こうの事務的な隆之の声を聞きながら、そうか、隆之も親族になるのかと不思議な気持ちになる。
 いつも何かあって東京へ行かなくてはいけないときは酷く憂鬱な気分になったものだ。
 祖父が亡くなったというのに不謹慎な話だが、今回もそれは変わらない。
 けれど、隆之が駆けつけてくれるならいつもよりはマシに過ごせるかもしれないと思う。

「…心細い思いをさせてすまない。何かあったらいつでも電話をくれ。」

 電話を切る間際の囁くような隆之の言葉が胸にしみた。
 そうだ自分はもう今井家の末の地味な孫ではないのだ。
 加賀隆之の妻としてしっかりとその役目を果たさなくては。

「大丈夫です。…東京でお待ちしております。」

 なるべく声に力を入れて答えて、由梨は電話を切った。
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