政略結婚は純愛のように~狼社長は新妻を一途に愛しすぎている~
「でも別に由梨も捨てたもんじゃないよな。」
唐突に会話に飛び込んできたのは幸仁の息子の今井智也だ。
「なりは地味だけど顔は可愛いじゃん。マリアみたいに巨乳じゃないし、祥子姉さんみたいに派手じゃないけど、由梨みたいなのが好きな男も絶対いるぜ。現に由梨はずっと兄貴のお気に入りじゃん!」
「智也、余計なことを言うんじゃありません!」
息子の言葉に芳子が声を荒げた。
智也はおっとと言って首を竦める。
智也の兄の和也は欧州への長期出張中でこの場にはいないが、一族の中で唯一由梨に親切にしてくれた人物だ。
けれど由梨はその親切を素直に受け止めることができないでした。
彼の母親である芳子の逆鱗に触れるからだ。
芳子は今井家の後継である和也が親しくするには由梨はふさわしくないと考えている節があった。
和也が由梨に優しくしているところを見かける度に、由梨へのあたりがキツくなる。
和也も母親には逆らえないため結局は由梨が辛い思いをすることになるのだ。
本当のことを言うと由梨はこの場に和也がいないことに少しホッとしていた。
「由梨さん、貴方は骨を埋めるつもりでしっかりと加賀家にお仕えしなさい。それが嫁となる者の務めですよ。」
案の定、芳子は由梨を睨んでいう。
「はい。」
由梨は返事をして食事を進める。
「皆さんも!加賀さんは北部の社長さんですよ!そのようにおっしゃるなら、北部へ行く覚悟をなさい!」
芳子の一括に食卓は静まり返った。
由梨はフォークとナイフを持った手を止めた。
対外的な今井家の長はもちろん幸仁だが、内内で影響力があるのはその妻である芳子である。
その芳子が一喝してもなお話を続けられる勇気のある者はいない。
これでもう由梨はあれこれ言われることはない。
助かった。
助かったはずなのに、何故か由梨の胸には青い炎が灯った。
由梨が知る限りずっと北部支社は嫌われの地だった。
今井家において"北部支社へ飛ばす"とはすなわち懲罰的な意味合いを指した。
一族の中で問題を起こした者、使えないとされた者、そうレッテルを貼られた者が行く所だった。
そんなことはもともと知っていたはずなのに、今改めて芳子の口から聞くと、今までと違った意味合いを帯びて聞こえる。
今までの由梨では考えられないことだけれど今確かに由梨は芳子に怒りを感じていた。
そして由梨は自分でも意識しないうちに静かに立ち上がった。
一瞬、場が静まり返る。
皆が由梨を呆気にとられたように見た。
テーブルに置いた手が震えているのは怒りか、恐れか、はたまたその両方か。
由梨はゆっくりと叔母である芳子を見た。
そうしてみて気がついたことだけれど考えてみればこのようにしっかりと彼女を見ること自体初めてかもしれない。
いつも彼女に叱言を言われる時は俯いて、恐ろしくて目を見られなかったから。
「なんです?由梨さん。お行儀が悪いですよ。座りなさい。全くあなたはいつまでたっても…。」
「おばさま。」
大きい声ではなかったがはっきりとした由梨の声は食堂によく通った。
芳子は一瞬何が起こったかわからないように目を瞬かせた。
由梨が今までこのように芳子の言うことを遮るようなことはなかったからだ。
「おばさま、北部支社をそのように仰るのはおやめください。」
怒りで少し声が震えてしまうけれど、どうしてもこれだけは言わねばならないと思った。
「北部支社も今井コンツェルンの一員です。そのように仰るのは、今井コンツェルンの会長である伯父様のお立場を考えると…控えるべきだと思います。」
食堂にいる誰もが今度こそ目を向いた。
あの由梨が。
今井のみそっかすの由梨が、一族のピラミッドの頂点にいる芳子に意見したのだ。
そんなこと天地がひっくり返ってもありえない。
「わ、わ、私に向かって、お、仰ったの?由梨さん。」
芳子も自身の耳が信じられなかったようだ。
由梨は静かに頷いた。
そしてじっと叔母を見つめる。
恐れる気持ちはあるけれど、けして目を逸らしてはいけない。
もう自分は今井家の一番下で泣いている小さな女の子ではない。
北部支社社長の加賀隆之の妻なのだ。
今まで散々浴びた由梨自身への侮辱はやり過ごせても北部支社への侮辱は許せない。
隆之の、そして秘書室の仲間の笑顔が脳裏に浮かんでは消えた。
唐突に会話に飛び込んできたのは幸仁の息子の今井智也だ。
「なりは地味だけど顔は可愛いじゃん。マリアみたいに巨乳じゃないし、祥子姉さんみたいに派手じゃないけど、由梨みたいなのが好きな男も絶対いるぜ。現に由梨はずっと兄貴のお気に入りじゃん!」
「智也、余計なことを言うんじゃありません!」
息子の言葉に芳子が声を荒げた。
智也はおっとと言って首を竦める。
智也の兄の和也は欧州への長期出張中でこの場にはいないが、一族の中で唯一由梨に親切にしてくれた人物だ。
けれど由梨はその親切を素直に受け止めることができないでした。
彼の母親である芳子の逆鱗に触れるからだ。
芳子は今井家の後継である和也が親しくするには由梨はふさわしくないと考えている節があった。
和也が由梨に優しくしているところを見かける度に、由梨へのあたりがキツくなる。
和也も母親には逆らえないため結局は由梨が辛い思いをすることになるのだ。
本当のことを言うと由梨はこの場に和也がいないことに少しホッとしていた。
「由梨さん、貴方は骨を埋めるつもりでしっかりと加賀家にお仕えしなさい。それが嫁となる者の務めですよ。」
案の定、芳子は由梨を睨んでいう。
「はい。」
由梨は返事をして食事を進める。
「皆さんも!加賀さんは北部の社長さんですよ!そのようにおっしゃるなら、北部へ行く覚悟をなさい!」
芳子の一括に食卓は静まり返った。
由梨はフォークとナイフを持った手を止めた。
対外的な今井家の長はもちろん幸仁だが、内内で影響力があるのはその妻である芳子である。
その芳子が一喝してもなお話を続けられる勇気のある者はいない。
これでもう由梨はあれこれ言われることはない。
助かった。
助かったはずなのに、何故か由梨の胸には青い炎が灯った。
由梨が知る限りずっと北部支社は嫌われの地だった。
今井家において"北部支社へ飛ばす"とはすなわち懲罰的な意味合いを指した。
一族の中で問題を起こした者、使えないとされた者、そうレッテルを貼られた者が行く所だった。
そんなことはもともと知っていたはずなのに、今改めて芳子の口から聞くと、今までと違った意味合いを帯びて聞こえる。
今までの由梨では考えられないことだけれど今確かに由梨は芳子に怒りを感じていた。
そして由梨は自分でも意識しないうちに静かに立ち上がった。
一瞬、場が静まり返る。
皆が由梨を呆気にとられたように見た。
テーブルに置いた手が震えているのは怒りか、恐れか、はたまたその両方か。
由梨はゆっくりと叔母である芳子を見た。
そうしてみて気がついたことだけれど考えてみればこのようにしっかりと彼女を見ること自体初めてかもしれない。
いつも彼女に叱言を言われる時は俯いて、恐ろしくて目を見られなかったから。
「なんです?由梨さん。お行儀が悪いですよ。座りなさい。全くあなたはいつまでたっても…。」
「おばさま。」
大きい声ではなかったがはっきりとした由梨の声は食堂によく通った。
芳子は一瞬何が起こったかわからないように目を瞬かせた。
由梨が今までこのように芳子の言うことを遮るようなことはなかったからだ。
「おばさま、北部支社をそのように仰るのはおやめください。」
怒りで少し声が震えてしまうけれど、どうしてもこれだけは言わねばならないと思った。
「北部支社も今井コンツェルンの一員です。そのように仰るのは、今井コンツェルンの会長である伯父様のお立場を考えると…控えるべきだと思います。」
食堂にいる誰もが今度こそ目を向いた。
あの由梨が。
今井のみそっかすの由梨が、一族のピラミッドの頂点にいる芳子に意見したのだ。
そんなこと天地がひっくり返ってもありえない。
「わ、わ、私に向かって、お、仰ったの?由梨さん。」
芳子も自身の耳が信じられなかったようだ。
由梨は静かに頷いた。
そしてじっと叔母を見つめる。
恐れる気持ちはあるけれど、けして目を逸らしてはいけない。
もう自分は今井家の一番下で泣いている小さな女の子ではない。
北部支社社長の加賀隆之の妻なのだ。
今まで散々浴びた由梨自身への侮辱はやり過ごせても北部支社への侮辱は許せない。
隆之の、そして秘書室の仲間の笑顔が脳裏に浮かんでは消えた。