政略結婚は純愛のように~狼社長は新妻を一途に愛しすぎている~
由梨の部屋で
「ここが由梨の部屋か。」
そう呟いて隆之なシャツの首元をくつろげた。
大広間を出た後、何故か隆之はゲストルームではなく由梨の部屋へ行きたいと言った。
なにもないですよと言ってもそれでも見たいと言われては仕方がない。
特に断る理由もなく今は由梨の部屋で二人きりである。
大広間にいたときも今井家の中に隆之がいることに酷く違和感を感じた由梨だけれど、自分の部屋となると尚更だ。
由梨の好きな水色の花柄のファブリックの中に黒い上質なスーツを着た背が高い隆之は、なんだか異世界からきた宇宙人のようにさえ思える。
それくらい由梨の中では、隆之と今井家はそぐわない。
「もうなにも残っていませんが。」
そう言ってもじもじとする由梨の方がまるで客人だ。
なんだか身の置き場がない。
それにしても隆之はなぜいつもこのように堂々としているのだろう。
大広間でも、幸仁叔父の前でも。
「結婚が急だったから、あっちの君の部屋に行く機会がなかっただろう。せっかくだからどんな感じか知りたくてさ。」
機嫌良く言って隆之は、自然とベッドに腰を下ろした。
そしてポンポンと自分の隣を叩く。
由梨にも座れということだろう。
けれど由梨はそれはできなかった。
先に言っておくことがある。
「あの、社長。…食堂でのこと…すみませんでした。」
由梨は隆之の前でうなだれた。
血族だけを大切にして世間を狭くしてきた人たちの戯言でも、言っていいことと悪いことがあると思う。
ただただ恥ずかしかった。
数年前まで自分がその中にいたという事実があるから尚更。
「由梨が気にすることはない。」
隆之が由梨の両手をとって穏やかな表情で見上げる。
「縁つづきになる家のことだからね。大体のことはわかっていたよ。」
それでも、と由梨は首を振る。
思いがけず涙が溢れた。
悔しくて、許せなくて、やるせなかった。
涙は由梨が首を振るたびにぽたぽたと由梨の両手を包む隆之の手に落ちた。
「由梨?…全部わかっていたことだから。」
確かにそうだろう。
加賀隆之ほどの人物が良く調べもしないで人生の一大事を決めるはずがない。
政略結婚であれば尚更。
泣き止まない由梨の両手をぎゅっぎゅっと隆之の大きな手が握る。
「でも…。しゃ、しゃ…ちょう。あんな、あん…な言い方…。」
大好きな人からもらったプレゼントを土足で踏みにじられた上に、それをその大好きな人に見られてしまった。
そんな気分だ。
涙が止まらなかった。
「…もし君が困るようであれば助けに入らなくてはと思っていたけれど。…その必要はなかったみたいだ。」
由梨はうなだれていた顔を上げて隆之を見た。
隆之の瞳の光が力強く由梨を見ている。
「由梨、良くやってくれたね。…ありがとう。」
「社長…。」
やっと涙が止まった。
隆之の妻として少しはその役目を果たすことができたのかもしれないと思った。
けれどその途端に隆之は顔をしかめた。
「由梨、呼び方が戻っている。」
「あ…。」
由梨は思わず口を押さえる。
北部支社への思いが強く出て妻と言いながら一社員のような気持ちになっていたのかもしれない。
隆之は由梨をひと睨みすると立ち上がった。
「え?きゃっ…!」
由梨をサッと抱え込むともう一度ベッドに腰掛ける。
由梨はその広い膝の上に子供のように座らされてしまった。
慌てて立ち上がろうにもがっしりとした両腕に囲われて叶わない。
さらには至近距離からあの狼の瞳で見つめられてますます動けなくなってしまう。
「君は無意識かもしれないけれど、家でも時々、"社長"になっているぞ。」
「え?…そうですか?」
全く気がつかなかった。
昼間の会社ではもちろん社長と呼ぶのでうまく切り替えが出来ていなかったのだろう。
もっとも由梨が隆之をどれだけ自分の夫として見られているかと言われると自信がないのだけれど。
隆之はそうだと言うとやや大げさに眉を寄せた。
「き、気をつけます…。」
そう言う由梨の唇を隆之の親指がたどる。
茶色いはずの隆之の瞳がキラリと光った。
「君の中で、俺はまだ社長のままか?」
なんと答えればいいのだろう。
隆之は由梨にとって大好きな会社の尊敬できる上司でありそれは仕事を続ける限りずっと変わらない。
今井家という檻のドアの鍵を由梨に渡してくれた恩人でもある。
一方で愛おしいという気持ちはまだ芽生えたばかりで、もちろんどんどん大きくなってはいるけれど、そのことに戸惑っている自分もいる。
そんなことが由梨の頭の中をぐるぐると回った。
隆之の強い眼差しはじっと由梨を捉えて離さない。
何か言わなくては、由梨がそう思ったとき。
隆之が自身の唇をペロリと舐めた。
(あ…、狼。)
由梨がそう思った刹那。
貴之が自身の唇で由梨のそれを塞いだ。
「ん…んんっ…!」
こんなキスは知らない。
由梨は思わずくぐもった声を漏らす。
その自分の出した声が妙に艶めいていて恥ずかしかった。
やっぱり彼は狼なのだと強く思う。
だってこんな全てを食べ尽くすようなキスをするのだから。
反射的に逃げようとする由梨の体は隆之の鍛えられた両腕に抱き込まれ、後頭部に大きな手を差し入れられては身動きすら取れない。
あとは隆之のなすがままだ。
今までとは比べ物にならないほどの長いキスに由梨の唇は酸素を求めて薄く開く。
そこへ隆之はすかさず侵入した。
「んんっ…!」
まるで脳の内側を舐められているような感覚に、由梨は全身を震わせる。
初めての刺激は由梨には強すぎて少し怖い。
けれど隆之はそんな由梨の気持ちを知ってか知らずか、中で盛大に暴れまわった。
由梨は知らなかった。
口内を刺激されるのがこんなに気持ちいいなんて。
脳がとろとろに溶けてしまいそうだ。
隆之の上等のシャツがシワになることも考えられずにひたすら震える手でしがみついた。
そしてその由梨の両手の力も抜けようとする頃、ようやく解放された。
「…大丈夫か?」
官能的な刺激と酸素不足で由梨はぐったりとして口も聞けない。
隆之の腕の中でただはぁはぁと息をするのみである。
そんな由梨を見て隆之がくっくっと喉で笑った。
そう呟いて隆之なシャツの首元をくつろげた。
大広間を出た後、何故か隆之はゲストルームではなく由梨の部屋へ行きたいと言った。
なにもないですよと言ってもそれでも見たいと言われては仕方がない。
特に断る理由もなく今は由梨の部屋で二人きりである。
大広間にいたときも今井家の中に隆之がいることに酷く違和感を感じた由梨だけれど、自分の部屋となると尚更だ。
由梨の好きな水色の花柄のファブリックの中に黒い上質なスーツを着た背が高い隆之は、なんだか異世界からきた宇宙人のようにさえ思える。
それくらい由梨の中では、隆之と今井家はそぐわない。
「もうなにも残っていませんが。」
そう言ってもじもじとする由梨の方がまるで客人だ。
なんだか身の置き場がない。
それにしても隆之はなぜいつもこのように堂々としているのだろう。
大広間でも、幸仁叔父の前でも。
「結婚が急だったから、あっちの君の部屋に行く機会がなかっただろう。せっかくだからどんな感じか知りたくてさ。」
機嫌良く言って隆之は、自然とベッドに腰を下ろした。
そしてポンポンと自分の隣を叩く。
由梨にも座れということだろう。
けれど由梨はそれはできなかった。
先に言っておくことがある。
「あの、社長。…食堂でのこと…すみませんでした。」
由梨は隆之の前でうなだれた。
血族だけを大切にして世間を狭くしてきた人たちの戯言でも、言っていいことと悪いことがあると思う。
ただただ恥ずかしかった。
数年前まで自分がその中にいたという事実があるから尚更。
「由梨が気にすることはない。」
隆之が由梨の両手をとって穏やかな表情で見上げる。
「縁つづきになる家のことだからね。大体のことはわかっていたよ。」
それでも、と由梨は首を振る。
思いがけず涙が溢れた。
悔しくて、許せなくて、やるせなかった。
涙は由梨が首を振るたびにぽたぽたと由梨の両手を包む隆之の手に落ちた。
「由梨?…全部わかっていたことだから。」
確かにそうだろう。
加賀隆之ほどの人物が良く調べもしないで人生の一大事を決めるはずがない。
政略結婚であれば尚更。
泣き止まない由梨の両手をぎゅっぎゅっと隆之の大きな手が握る。
「でも…。しゃ、しゃ…ちょう。あんな、あん…な言い方…。」
大好きな人からもらったプレゼントを土足で踏みにじられた上に、それをその大好きな人に見られてしまった。
そんな気分だ。
涙が止まらなかった。
「…もし君が困るようであれば助けに入らなくてはと思っていたけれど。…その必要はなかったみたいだ。」
由梨はうなだれていた顔を上げて隆之を見た。
隆之の瞳の光が力強く由梨を見ている。
「由梨、良くやってくれたね。…ありがとう。」
「社長…。」
やっと涙が止まった。
隆之の妻として少しはその役目を果たすことができたのかもしれないと思った。
けれどその途端に隆之は顔をしかめた。
「由梨、呼び方が戻っている。」
「あ…。」
由梨は思わず口を押さえる。
北部支社への思いが強く出て妻と言いながら一社員のような気持ちになっていたのかもしれない。
隆之は由梨をひと睨みすると立ち上がった。
「え?きゃっ…!」
由梨をサッと抱え込むともう一度ベッドに腰掛ける。
由梨はその広い膝の上に子供のように座らされてしまった。
慌てて立ち上がろうにもがっしりとした両腕に囲われて叶わない。
さらには至近距離からあの狼の瞳で見つめられてますます動けなくなってしまう。
「君は無意識かもしれないけれど、家でも時々、"社長"になっているぞ。」
「え?…そうですか?」
全く気がつかなかった。
昼間の会社ではもちろん社長と呼ぶのでうまく切り替えが出来ていなかったのだろう。
もっとも由梨が隆之をどれだけ自分の夫として見られているかと言われると自信がないのだけれど。
隆之はそうだと言うとやや大げさに眉を寄せた。
「き、気をつけます…。」
そう言う由梨の唇を隆之の親指がたどる。
茶色いはずの隆之の瞳がキラリと光った。
「君の中で、俺はまだ社長のままか?」
なんと答えればいいのだろう。
隆之は由梨にとって大好きな会社の尊敬できる上司でありそれは仕事を続ける限りずっと変わらない。
今井家という檻のドアの鍵を由梨に渡してくれた恩人でもある。
一方で愛おしいという気持ちはまだ芽生えたばかりで、もちろんどんどん大きくなってはいるけれど、そのことに戸惑っている自分もいる。
そんなことが由梨の頭の中をぐるぐると回った。
隆之の強い眼差しはじっと由梨を捉えて離さない。
何か言わなくては、由梨がそう思ったとき。
隆之が自身の唇をペロリと舐めた。
(あ…、狼。)
由梨がそう思った刹那。
貴之が自身の唇で由梨のそれを塞いだ。
「ん…んんっ…!」
こんなキスは知らない。
由梨は思わずくぐもった声を漏らす。
その自分の出した声が妙に艶めいていて恥ずかしかった。
やっぱり彼は狼なのだと強く思う。
だってこんな全てを食べ尽くすようなキスをするのだから。
反射的に逃げようとする由梨の体は隆之の鍛えられた両腕に抱き込まれ、後頭部に大きな手を差し入れられては身動きすら取れない。
あとは隆之のなすがままだ。
今までとは比べ物にならないほどの長いキスに由梨の唇は酸素を求めて薄く開く。
そこへ隆之はすかさず侵入した。
「んんっ…!」
まるで脳の内側を舐められているような感覚に、由梨は全身を震わせる。
初めての刺激は由梨には強すぎて少し怖い。
けれど隆之はそんな由梨の気持ちを知ってか知らずか、中で盛大に暴れまわった。
由梨は知らなかった。
口内を刺激されるのがこんなに気持ちいいなんて。
脳がとろとろに溶けてしまいそうだ。
隆之の上等のシャツがシワになることも考えられずにひたすら震える手でしがみついた。
そしてその由梨の両手の力も抜けようとする頃、ようやく解放された。
「…大丈夫か?」
官能的な刺激と酸素不足で由梨はぐったりとして口も聞けない。
隆之の腕の中でただはぁはぁと息をするのみである。
そんな由梨を見て隆之がくっくっと喉で笑った。