政略結婚は純愛のように~狼社長は新妻を一途に愛しすぎている~
再び隆之が、あぁーーと唸って、由梨の胸元に顔を埋めた。
「?…隆之さん?」
由梨は頬を染めたままキョトンとして彼の後頭部を見つめる。
がっしりと抱きしめる力はさっきより強く由梨はますます身動きが取れない。
けれどもなんだか目の前のつむじが可愛らしく思えて指で押してみる。
隆之が顔を上げた。
「せっかく由梨からオーケーが出たのに。…ここじゃ君を抱けない。」
ふてくされたように言う隆之に由梨は耳まで真っ赤になる。
もちろんそのつもりで答えたのだけれど、そう直接的に言われたのではなんだか恥ずかしくて仕方がない。
「た、隆之さん!」
「ここは君を抱くのに相応しくない場所だし、君はおじいさまを亡くしたばかりだ。…あぁ、今すぐに俺の屋敷に連れて帰りたい。」
やや早口に言って再び隆之は由梨を抱きしめた。
本当に、彼は一体いくつ顔を持っているのだろう。
社長の顔、狼の顔…。そして今は、なんだか同級生の男の子のように率直で飾り気がなくて素直だ。
どの顔も彼に違いはないけれど変わるたびに由梨はドキドキとさせられる。
心の準備はできたと答えた由梨だけれどこんなことではやっぱり無理かもしれないと挫けそうになってしまう。
「由梨、言質はとったからな。加賀家に帰ったら、俺はもう待てない。」
「そ、そんなふうに言わないで下さい。」
由梨は真っ赤になって隆之を睨む。
「そんなふうって、どんなふうだ?」
とぼけてみせる隆之が恨めしい。
「だ、だ、抱くとか、待たないとか…!」
恥ずかしい。
由梨は両手で顔を覆った。
隆之と由梨とは経験値が雲泥の差なのだ。
もう少し歩調を合わせてくれないといつか心臓が破れてしまうと由梨は思う。
けれど指の隙間から見る隆之はなんだか愉快そうに微笑んでいる。
「なにが、恥ずかしいんだ。由梨と俺は夫婦なんだから何も悪いことじゃないだろう。」
「それでもダメです!」
反論する由梨に隆之はアーモンド色の瞳を優しく細めた。
「ぷんぷん怒る由梨も可愛いな。」
一体彼はどうしてしまったのだろうと由梨は訝しむ。
政略結婚なりに由梨を大切にしようとしてくれていたのは知っている。
経験豊富な彼が何もなしの結婚生活に満足していないであろうことも。
けれどこれじゃあ、まるで、まるで彼が由梨を好きみたいじゃないか。
隆之は真っ赤なままの由梨の頬にちゅっと音を立ててキスをした。
由梨が驚くまもなく、次は額に、瞳に、そして首にまで。
次々にキスを落としてゆく。
「おじいさんを亡くしたばかりなのに不謹慎なことをしてすまない。」
隆之はそう言って仕上げとばかりに最後は唇に深いキスを落とす。
「ん…。」
由梨は今度は戸惑いなく彼の侵入を受け入れる。
心なしかさっきよりも熱く感じる彼に夢中で由梨も吸い付いた。
隆之は丁寧に丁寧に由梨の中を味わってゆく。
隆之が由梨の初めての場所に触れるたびに、頭がふわふわとしてなんだが上も下もない場所にいるみたいな気分になる。
いつのまにか由梨の体からは力が抜けてがっしりとした隆之に委ねるようにもたれかかるようになった頃、隆之がゆっくりと離れてゆく。
信じられないことだけれど、由梨はそれを物足りなく感じた。
「…少し、慣れたみたいだな。」
隆之が愉快そうに由梨を見下ろして言う。
慣れた?
これで?
由梨はぼんやりとしたまま考える。
こんなにドキドキとして頭がふわふわとするというのに?
「私…キスも、何もかも初めてだったので…あの…上手くできなかったらごめんなさい。」
由梨は俯いて蚊の鳴くような声で言う。
覚悟はできたなどと大それたことを言ってその実、全く経験がなくてはがっかりとさせてしまうかもしれない。
しかも隆之の今の口ぶりから察するにそんなことはお見通しだということだろう。
「…。」
隆之がなにも言わないのを不思議に思い由梨は顔を上げる。
隆之は右手で顔を覆って目を閉じていた。
(隆之さん…?顔が…赤い?)
「あの…。」
どうかしたのかと由梨が訝しんで声をかけた時。
「ダメだ。」
隆之が突然由梨をベッドへ下ろし立ち上がった。
え?ダメ?
由梨はベッドにぺたりと座ったまま立ち上がった隆之を見る。
やはり経験がなくて上手くできなくてはダメということだろうか。
けれどどうやらそうではないらしい。
隆之は少し情けない表情でぐしゃぐしゃと頭をかいた。
いつもキチンと撫でつけられている髪がぴんぴんと跳ねた。
「このままここにいたら、…我慢できなくなりそうだ。」
「なっ…!」
だからそういうことは言わないでほしいのにと声をあげかける由梨を隆之は軽く睨む。
「由梨。君をほしいと思う男の前で、そんなことを言うと…なにをされても文句は言えない。…今回は俺の忍耐に、感謝するように!」
そう言って足早に出口へ向かうと廊下へ続くドアを開ける。
「え?あっ…。あの…。」
ゲストルームへの案内は、家の誰かに頼むよ、と言い残してそのまま戸惑う由梨を置いて部屋を出て行った。
残された由梨はスーツの大きな背中が消えていったドアをずっとずっと見つめていた。
その夜は、隆之が残していった熱いキスの余韻がなかなか消えてはくれず、由梨はベッドに入ってからも何度も何度も寝返りをうった。
「?…隆之さん?」
由梨は頬を染めたままキョトンとして彼の後頭部を見つめる。
がっしりと抱きしめる力はさっきより強く由梨はますます身動きが取れない。
けれどもなんだか目の前のつむじが可愛らしく思えて指で押してみる。
隆之が顔を上げた。
「せっかく由梨からオーケーが出たのに。…ここじゃ君を抱けない。」
ふてくされたように言う隆之に由梨は耳まで真っ赤になる。
もちろんそのつもりで答えたのだけれど、そう直接的に言われたのではなんだか恥ずかしくて仕方がない。
「た、隆之さん!」
「ここは君を抱くのに相応しくない場所だし、君はおじいさまを亡くしたばかりだ。…あぁ、今すぐに俺の屋敷に連れて帰りたい。」
やや早口に言って再び隆之は由梨を抱きしめた。
本当に、彼は一体いくつ顔を持っているのだろう。
社長の顔、狼の顔…。そして今は、なんだか同級生の男の子のように率直で飾り気がなくて素直だ。
どの顔も彼に違いはないけれど変わるたびに由梨はドキドキとさせられる。
心の準備はできたと答えた由梨だけれどこんなことではやっぱり無理かもしれないと挫けそうになってしまう。
「由梨、言質はとったからな。加賀家に帰ったら、俺はもう待てない。」
「そ、そんなふうに言わないで下さい。」
由梨は真っ赤になって隆之を睨む。
「そんなふうって、どんなふうだ?」
とぼけてみせる隆之が恨めしい。
「だ、だ、抱くとか、待たないとか…!」
恥ずかしい。
由梨は両手で顔を覆った。
隆之と由梨とは経験値が雲泥の差なのだ。
もう少し歩調を合わせてくれないといつか心臓が破れてしまうと由梨は思う。
けれど指の隙間から見る隆之はなんだか愉快そうに微笑んでいる。
「なにが、恥ずかしいんだ。由梨と俺は夫婦なんだから何も悪いことじゃないだろう。」
「それでもダメです!」
反論する由梨に隆之はアーモンド色の瞳を優しく細めた。
「ぷんぷん怒る由梨も可愛いな。」
一体彼はどうしてしまったのだろうと由梨は訝しむ。
政略結婚なりに由梨を大切にしようとしてくれていたのは知っている。
経験豊富な彼が何もなしの結婚生活に満足していないであろうことも。
けれどこれじゃあ、まるで、まるで彼が由梨を好きみたいじゃないか。
隆之は真っ赤なままの由梨の頬にちゅっと音を立ててキスをした。
由梨が驚くまもなく、次は額に、瞳に、そして首にまで。
次々にキスを落としてゆく。
「おじいさんを亡くしたばかりなのに不謹慎なことをしてすまない。」
隆之はそう言って仕上げとばかりに最後は唇に深いキスを落とす。
「ん…。」
由梨は今度は戸惑いなく彼の侵入を受け入れる。
心なしかさっきよりも熱く感じる彼に夢中で由梨も吸い付いた。
隆之は丁寧に丁寧に由梨の中を味わってゆく。
隆之が由梨の初めての場所に触れるたびに、頭がふわふわとしてなんだが上も下もない場所にいるみたいな気分になる。
いつのまにか由梨の体からは力が抜けてがっしりとした隆之に委ねるようにもたれかかるようになった頃、隆之がゆっくりと離れてゆく。
信じられないことだけれど、由梨はそれを物足りなく感じた。
「…少し、慣れたみたいだな。」
隆之が愉快そうに由梨を見下ろして言う。
慣れた?
これで?
由梨はぼんやりとしたまま考える。
こんなにドキドキとして頭がふわふわとするというのに?
「私…キスも、何もかも初めてだったので…あの…上手くできなかったらごめんなさい。」
由梨は俯いて蚊の鳴くような声で言う。
覚悟はできたなどと大それたことを言ってその実、全く経験がなくてはがっかりとさせてしまうかもしれない。
しかも隆之の今の口ぶりから察するにそんなことはお見通しだということだろう。
「…。」
隆之がなにも言わないのを不思議に思い由梨は顔を上げる。
隆之は右手で顔を覆って目を閉じていた。
(隆之さん…?顔が…赤い?)
「あの…。」
どうかしたのかと由梨が訝しんで声をかけた時。
「ダメだ。」
隆之が突然由梨をベッドへ下ろし立ち上がった。
え?ダメ?
由梨はベッドにぺたりと座ったまま立ち上がった隆之を見る。
やはり経験がなくて上手くできなくてはダメということだろうか。
けれどどうやらそうではないらしい。
隆之は少し情けない表情でぐしゃぐしゃと頭をかいた。
いつもキチンと撫でつけられている髪がぴんぴんと跳ねた。
「このままここにいたら、…我慢できなくなりそうだ。」
「なっ…!」
だからそういうことは言わないでほしいのにと声をあげかける由梨を隆之は軽く睨む。
「由梨。君をほしいと思う男の前で、そんなことを言うと…なにをされても文句は言えない。…今回は俺の忍耐に、感謝するように!」
そう言って足早に出口へ向かうと廊下へ続くドアを開ける。
「え?あっ…。あの…。」
ゲストルームへの案内は、家の誰かに頼むよ、と言い残してそのまま戸惑う由梨を置いて部屋を出て行った。
残された由梨はスーツの大きな背中が消えていったドアをずっとずっと見つめていた。
その夜は、隆之が残していった熱いキスの余韻がなかなか消えてはくれず、由梨はベッドに入ってからも何度も何度も寝返りをうった。