政略結婚は純愛のように~狼社長は新妻を一途に愛しすぎている~
「ゲストルームへ行かれるのですか?…由梨は?」
親しげな様子から先ほど食堂にいた今井家の中の誰かだとあたりをつけるが名前は浮かばなかった。
結婚式に出席した親戚の名前と顔は一致してる筈だから、彼女とは初対面だ。
「由梨は疲れていたようなので、部屋に残してきました。…失礼ですが…?」
「今井祥子です。由梨の従姉妹に当たります。…実は加賀さんとは初対面ではありませんのよ。」
祥子の意味ありげな流し目に、隆之はおっとと心の中で呟いて警戒した。
正直、東京へ来るとこういうことがよくある。
隆之は大学時代から副社長に就任するまでの期間を東京で過ごした。
その間は、言われるままに女性と付き合った。
我ながら乱れた生活をしていたという自覚はあるが、後悔はしていない。
特定の相手がいた方が都合が良かったからだ。
大学でもその後にいた商社でも、とにかく隆之はよく女性から声をかけられた。
フリーでいると誘いはひっきりなしだったし、断る理由にも気を使う。
彼女がいれば断る理由ができるので都合が良かったのだ。
もちろん相手を選んではいたし付き合い自体を楽しんでいたのも事実だが。
そんな東京時代に関わった女性は元彼女ならともかく、そうでなければいちいち覚えていないのが本当のところだ。
思い出せないで申し訳ないとも思うが、そもそも何年も前に一言二言会話した程度の者も多く、正直言って皆よく覚えているなと感心するくらいである。
こういうときは、にこやかにして少し戸惑ったように首を傾げれば、相手は勝手にどの程度の接触だったかを語り出すことを隆之は経験で知っている。
案の定、祥子は体をくねらせて話し出した。
「私、マリアの親友です!S女子大の。何回かお話ししたことがあります!」
確かにマリアは覚えていた。
そういえば、マリアの隣にいつもいた少し派手な女と印象が似ている。
きっと彼女だろうと隆之はあたりをつけて微笑む。
「あぁ、そういえば。…時々隣にお友達がいたような。貴方でしたか。世間は狭いですね。」
「そうです!それが私です!」
祥子は頬を染めて隆之ににじり寄る。
隆之は思わず後退りしそうになるのをなんとか堪えた。
キツイ香水の香りが強く匂う。
「そうですか、すぐに気がつかなくて申し訳ありませんでした。…ところでゲストルームはどちらでしょう。」
隆之はさっさとこの場を立ち去る算段をする。
丁寧に接する必要がある人物だが、あまり長く話していたいタイプでもないと思った。
「あらぁ。由梨ったらきちんとご案内しなかったのですか。…本当にぼんやりなんだから。」
祥子は元々キツく見える目元をもっと険しくして言った。
「私が断ったのですよ、叱らないでやって下さい。確かゲストルームは一階ですね。…失礼します。」
隆之はきっぱりと言って再び階段を降りはじめる。
祥子の口ぶりの中に、親しい者同士で言い合う軽口などではない不快なものを感じた。
由梨が東京へ帰りたくないと言った原因の一端をみたような気がして気持ちの悪い感情が腹の中から湧き上がる。
「お待ち下さいませ。私がご案内しますわ。」
そう言って祥子が隆之の後を追ってきた。
心の中でため息をつきながらも、隆之は彼女のいう通りにする。
兎にも角にもゲストルームに着かなくては彼女から逃れられそうにはない。
親しげな様子から先ほど食堂にいた今井家の中の誰かだとあたりをつけるが名前は浮かばなかった。
結婚式に出席した親戚の名前と顔は一致してる筈だから、彼女とは初対面だ。
「由梨は疲れていたようなので、部屋に残してきました。…失礼ですが…?」
「今井祥子です。由梨の従姉妹に当たります。…実は加賀さんとは初対面ではありませんのよ。」
祥子の意味ありげな流し目に、隆之はおっとと心の中で呟いて警戒した。
正直、東京へ来るとこういうことがよくある。
隆之は大学時代から副社長に就任するまでの期間を東京で過ごした。
その間は、言われるままに女性と付き合った。
我ながら乱れた生活をしていたという自覚はあるが、後悔はしていない。
特定の相手がいた方が都合が良かったからだ。
大学でもその後にいた商社でも、とにかく隆之はよく女性から声をかけられた。
フリーでいると誘いはひっきりなしだったし、断る理由にも気を使う。
彼女がいれば断る理由ができるので都合が良かったのだ。
もちろん相手を選んではいたし付き合い自体を楽しんでいたのも事実だが。
そんな東京時代に関わった女性は元彼女ならともかく、そうでなければいちいち覚えていないのが本当のところだ。
思い出せないで申し訳ないとも思うが、そもそも何年も前に一言二言会話した程度の者も多く、正直言って皆よく覚えているなと感心するくらいである。
こういうときは、にこやかにして少し戸惑ったように首を傾げれば、相手は勝手にどの程度の接触だったかを語り出すことを隆之は経験で知っている。
案の定、祥子は体をくねらせて話し出した。
「私、マリアの親友です!S女子大の。何回かお話ししたことがあります!」
確かにマリアは覚えていた。
そういえば、マリアの隣にいつもいた少し派手な女と印象が似ている。
きっと彼女だろうと隆之はあたりをつけて微笑む。
「あぁ、そういえば。…時々隣にお友達がいたような。貴方でしたか。世間は狭いですね。」
「そうです!それが私です!」
祥子は頬を染めて隆之ににじり寄る。
隆之は思わず後退りしそうになるのをなんとか堪えた。
キツイ香水の香りが強く匂う。
「そうですか、すぐに気がつかなくて申し訳ありませんでした。…ところでゲストルームはどちらでしょう。」
隆之はさっさとこの場を立ち去る算段をする。
丁寧に接する必要がある人物だが、あまり長く話していたいタイプでもないと思った。
「あらぁ。由梨ったらきちんとご案内しなかったのですか。…本当にぼんやりなんだから。」
祥子は元々キツく見える目元をもっと険しくして言った。
「私が断ったのですよ、叱らないでやって下さい。確かゲストルームは一階ですね。…失礼します。」
隆之はきっぱりと言って再び階段を降りはじめる。
祥子の口ぶりの中に、親しい者同士で言い合う軽口などではない不快なものを感じた。
由梨が東京へ帰りたくないと言った原因の一端をみたような気がして気持ちの悪い感情が腹の中から湧き上がる。
「お待ち下さいませ。私がご案内しますわ。」
そう言って祥子が隆之の後を追ってきた。
心の中でため息をつきながらも、隆之は彼女のいう通りにする。
兎にも角にもゲストルームに着かなくては彼女から逃れられそうにはない。