政略結婚は純愛のように~狼社長は新妻を一途に愛しすぎている~
 火葬場から出たその足で隆之は帰って行った。
 なんだが力が抜けてしまったような由梨を心配し夜まで付き添うと言う彼を由梨は無理矢理に車に乗せた。
 隆之がどれだけ忙しい身かを知っているからだ。
 帰りを先延ばしにしては後のスケジュールが詰まってしまい、帰ってからが大変になる。
 自分が一緒に帰れないなら尚更それは避けたい。
 それに、もう自分は大丈夫だ。
 手に残る感触を由梨は握りしめる。
 それは確かにまだ由梨の手のひらから全身までを温め続けている。
 
「私は大丈夫です。…隆之さんが隣にいてくれ良かったです。」
 
 微笑む由梨の頬を指で摘んで隆之は心配そうに眉を寄せた。

「…なるべく早く帰っておいで。君の家は加賀家だ。…待ってるよ。」

「はい。」

 隆之を乗せた車が遠ざかっても、もう心細いとは思わなかった。
 そうだ。
 帰る家が自分にはある。
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