政略結婚は純愛のように~狼社長は新妻を一途に愛しすぎている~
予想もしなかった突然の告白に息を呑む由梨をよそに、隆之は続ける。
「会長が和也氏が君に執着して困っていると漏らすのを聞いて俺が持ちかけたんだ、君との結婚を。君をものにできるチャンスだと思った。そうやって今井家の了解を取り付けておいて何も知らない君を結婚へ追い込んだんだ。」
「追い込んだなんて…隆之さんは選ばせてくれたじゃない。私が決めていいって…。」
初めて知る事実に由梨は混乱しながらも反論する。
まるで自分が悪者だと言わんばかりの隆之を痛々しく感じた。
「会社のことと、君の身の上をわかった上で選択させるフリをしただけだ。…君が断れないことは、わかっていた。由梨…俺は…。」
隆之の右手が拳を作って震えた。
「俺は、…今井和也と同じだ。」
「違うわ!」
由梨は思わず叫ぶ。
「違わない!…何も違わない。君に恋をして君が欲しくて、裏で工作して君を手に入れた。君の意志を無視して…同じだ…。」
由梨は、同じじゃないともう一度叫ぼうとした。
けれどうまく声が出なかった。
代わりに涙が溢れた。
「君を救ったあの日、あの男を見ていて気がついたんだ。奴は確かに愚かだが所詮俺も同じ穴のムジナだと。俺は成功し、奴は失敗した、ただそれだけの違いだ。」
そう言って隆之は立ち上がった。
そしてローテーブルを回り込んで由梨の前にひざまずいた。
大きな手が後から後から流れ出る由梨の涙を拭う。
「…君を本当に愛しているから、素知らぬ顔で君の夫でいることができなくなったんだ。」
以前、秘書室の女性陣で隆之の話をしたときのことが由梨の脳裏に蘇る。
隆之の真っ直ぐな気性は己の狡さを隠すことができなかった。
「由梨、選んでくれ。…この話を聞いても俺の妻でい続けるのか。それとも…新たな道を行くのか。君がどちらを選んでもけして君に不利になるようなことはない。そのためにはなんでもする。…もし、…別れたあとも秘書室で働きたいと言うならそのように取り計らう。俺と一緒が嫌なら俺は社長を辞するよ。」
できるはずもないことだと思うけれど彼ならやるだろう。
そういう人だ。
「今度こそ本当に選択を君に委ねるよ。由梨、…選んでくれ。」
そう言い残して隆之は帰って行った。
由梨はそれを見送ることもできずにソファに座ったまま動けずにいた。
いつのまにか陽は傾いて、由梨が愛する街をオレンジ色に染めている。
なんて切ない告白なんだろう。
彼は身を切るようにして由梨に誠実を示してくれた。
それは、今まで散々自我を無視され続けてきた由梨への最大限の愛情表現だ。
本当の解放。
それを由梨にもたらしてくれたのは、他の誰でもない加賀隆之だった。
「会長が和也氏が君に執着して困っていると漏らすのを聞いて俺が持ちかけたんだ、君との結婚を。君をものにできるチャンスだと思った。そうやって今井家の了解を取り付けておいて何も知らない君を結婚へ追い込んだんだ。」
「追い込んだなんて…隆之さんは選ばせてくれたじゃない。私が決めていいって…。」
初めて知る事実に由梨は混乱しながらも反論する。
まるで自分が悪者だと言わんばかりの隆之を痛々しく感じた。
「会社のことと、君の身の上をわかった上で選択させるフリをしただけだ。…君が断れないことは、わかっていた。由梨…俺は…。」
隆之の右手が拳を作って震えた。
「俺は、…今井和也と同じだ。」
「違うわ!」
由梨は思わず叫ぶ。
「違わない!…何も違わない。君に恋をして君が欲しくて、裏で工作して君を手に入れた。君の意志を無視して…同じだ…。」
由梨は、同じじゃないともう一度叫ぼうとした。
けれどうまく声が出なかった。
代わりに涙が溢れた。
「君を救ったあの日、あの男を見ていて気がついたんだ。奴は確かに愚かだが所詮俺も同じ穴のムジナだと。俺は成功し、奴は失敗した、ただそれだけの違いだ。」
そう言って隆之は立ち上がった。
そしてローテーブルを回り込んで由梨の前にひざまずいた。
大きな手が後から後から流れ出る由梨の涙を拭う。
「…君を本当に愛しているから、素知らぬ顔で君の夫でいることができなくなったんだ。」
以前、秘書室の女性陣で隆之の話をしたときのことが由梨の脳裏に蘇る。
隆之の真っ直ぐな気性は己の狡さを隠すことができなかった。
「由梨、選んでくれ。…この話を聞いても俺の妻でい続けるのか。それとも…新たな道を行くのか。君がどちらを選んでもけして君に不利になるようなことはない。そのためにはなんでもする。…もし、…別れたあとも秘書室で働きたいと言うならそのように取り計らう。俺と一緒が嫌なら俺は社長を辞するよ。」
できるはずもないことだと思うけれど彼ならやるだろう。
そういう人だ。
「今度こそ本当に選択を君に委ねるよ。由梨、…選んでくれ。」
そう言い残して隆之は帰って行った。
由梨はそれを見送ることもできずにソファに座ったまま動けずにいた。
いつのまにか陽は傾いて、由梨が愛する街をオレンジ色に染めている。
なんて切ない告白なんだろう。
彼は身を切るようにして由梨に誠実を示してくれた。
それは、今まで散々自我を無視され続けてきた由梨への最大限の愛情表現だ。
本当の解放。
それを由梨にもたらしてくれたのは、他の誰でもない加賀隆之だった。