政略結婚は純愛のように~狼社長は新妻を一途に愛しすぎている~
加賀隆之という男
由梨が加賀と話をした次の週の水曜日の午後、蜂須賀以外の秘書室の面々は由梨のパソコンの画面を食い入るように見つめていた。
午前中に行われた加賀の記者会見がもうネットニュースになっている。
カテゴリーは地域ニュースだが、動画もあがっていて、一会社の社長就任のニュースとしては異例の扱われかたである。
それだけこの街にとって加賀の存在が大きいということだ。
由梨は画面の中で言葉は多くないけれど、記者の質問に的確に答えていく加賀を見つめながら不思議な気持ちになる。
上質なスーツを着こなしたくさんの人に囲まれても堂々としている彼は、本当にあの夜自分にホットミルクを作ってくれた彼と同一人物なのだろうか。
「さっすがうちの副社長!」
奈々が心の底から感心したという様子で言った。
「長年の慣例すら変えてしまうなんて!…下の階の女子社員は大騒ぎですよ!でもこれで秘書室の私はまた針のむしろです…ううっ。」
奈々がおどけて言うのに長坂が眉をひそめている。
由梨は驚いて彼女を見た。
「奈々ちゃん、どうして針のむしろなの?」
奈々は由梨を呆れたように見て、これだから由梨先輩は…と口の中で呟いた。
「いいですか?由梨先輩。副社長は全社員の憧れです!目標です!…とくに女子社員はみんな隙あらばお近づきになりたいと思っているのですよ!したがって、秘書室の女子は妬まれて当然なのです。」
長坂がバカバカしいと呟いて首を振った。
由梨は声をあげた。
「そうなの!?」
知らなかった。
父博史とともに途中入社した由梨には奈々のように同期はいない。
秘書室の人間以外に社内に親しい人間もいないから噂話などは耳に入りにくいのだ。
それでなくても自分自身が噂の対象になりやすいという事情から由梨は意識的にそういう人の輪からは遠ざかるようにしている。
「副社長って、女の人に人気があるのね…。」
由梨は少し唖然として呟く。
隣で長坂が吹き出した。
「今井さん、本当に殿に興味がないのね。」
そんなことないです、と由梨は首を振る。
けれど正確な年齢も知らなくて本人にも憮然とされてしまったことが頭に浮かんだ。
「副社長がモテるのって社内だけじゃないんですよー。経済誌にもよく載るから、どこぞの会社のご令嬢とかモデルさんとかいろいろな方と噂になってますよね。そういう意味では社内の女子なんてとてもじゃないけど望みはないんです。それでも、だからこそ憧れしまうんですねー。」
由梨の胸にちくりとちいさなトゲが刺さったみたいな痛みが走る。
恋人がいてもおかしくはないなんて思いながら、本当にいるかもしれないと思うとなんだか嫌な気持ちになった。
「…ここ最近のは、噂だけよ。本当の付き合いはないわ。」
長坂が訳知り顔で言う。
「えー!!なんでわかるんですか?」
「そんなのスケジュール管理をしていれば一目瞭然でしょう。…もっとも、以前…そうね、五年くらい前までは相当に乱れたものだったけれど。」
長坂は意味ありげに由梨を見る。
けれど由梨には彼女が何を言わんとしているのかはいまいちわからなかった。
「そういえば、長坂先輩は副社長とT大で同級生でしたね。…あ!もしかして…。」
奈々は大げさに口を押さえて長坂を見る。
長坂が大きなため息をついた。
「そんなことあるわけがないでしょう。殿とは今も昔も目的を同じくする同士のようなものだわ。それ以上でもそれ以下でもない。」
奈々も言ってはみたものの二人の間になにかあるなどと本気では思っていないらしい。
「そうですよねー。」
とあっさり言った。
由梨はそれよりも"相当乱れたものだった"という部分に引っかかりを感じた。
(まだ本当に結婚するかどうかもわからないのに…馬鹿みたい。)
由梨は慌ててその引っかかりを振り切るように首を振った。
午前中に行われた加賀の記者会見がもうネットニュースになっている。
カテゴリーは地域ニュースだが、動画もあがっていて、一会社の社長就任のニュースとしては異例の扱われかたである。
それだけこの街にとって加賀の存在が大きいということだ。
由梨は画面の中で言葉は多くないけれど、記者の質問に的確に答えていく加賀を見つめながら不思議な気持ちになる。
上質なスーツを着こなしたくさんの人に囲まれても堂々としている彼は、本当にあの夜自分にホットミルクを作ってくれた彼と同一人物なのだろうか。
「さっすがうちの副社長!」
奈々が心の底から感心したという様子で言った。
「長年の慣例すら変えてしまうなんて!…下の階の女子社員は大騒ぎですよ!でもこれで秘書室の私はまた針のむしろです…ううっ。」
奈々がおどけて言うのに長坂が眉をひそめている。
由梨は驚いて彼女を見た。
「奈々ちゃん、どうして針のむしろなの?」
奈々は由梨を呆れたように見て、これだから由梨先輩は…と口の中で呟いた。
「いいですか?由梨先輩。副社長は全社員の憧れです!目標です!…とくに女子社員はみんな隙あらばお近づきになりたいと思っているのですよ!したがって、秘書室の女子は妬まれて当然なのです。」
長坂がバカバカしいと呟いて首を振った。
由梨は声をあげた。
「そうなの!?」
知らなかった。
父博史とともに途中入社した由梨には奈々のように同期はいない。
秘書室の人間以外に社内に親しい人間もいないから噂話などは耳に入りにくいのだ。
それでなくても自分自身が噂の対象になりやすいという事情から由梨は意識的にそういう人の輪からは遠ざかるようにしている。
「副社長って、女の人に人気があるのね…。」
由梨は少し唖然として呟く。
隣で長坂が吹き出した。
「今井さん、本当に殿に興味がないのね。」
そんなことないです、と由梨は首を振る。
けれど正確な年齢も知らなくて本人にも憮然とされてしまったことが頭に浮かんだ。
「副社長がモテるのって社内だけじゃないんですよー。経済誌にもよく載るから、どこぞの会社のご令嬢とかモデルさんとかいろいろな方と噂になってますよね。そういう意味では社内の女子なんてとてもじゃないけど望みはないんです。それでも、だからこそ憧れしまうんですねー。」
由梨の胸にちくりとちいさなトゲが刺さったみたいな痛みが走る。
恋人がいてもおかしくはないなんて思いながら、本当にいるかもしれないと思うとなんだか嫌な気持ちになった。
「…ここ最近のは、噂だけよ。本当の付き合いはないわ。」
長坂が訳知り顔で言う。
「えー!!なんでわかるんですか?」
「そんなのスケジュール管理をしていれば一目瞭然でしょう。…もっとも、以前…そうね、五年くらい前までは相当に乱れたものだったけれど。」
長坂は意味ありげに由梨を見る。
けれど由梨には彼女が何を言わんとしているのかはいまいちわからなかった。
「そういえば、長坂先輩は副社長とT大で同級生でしたね。…あ!もしかして…。」
奈々は大げさに口を押さえて長坂を見る。
長坂が大きなため息をついた。
「そんなことあるわけがないでしょう。殿とは今も昔も目的を同じくする同士のようなものだわ。それ以上でもそれ以下でもない。」
奈々も言ってはみたものの二人の間になにかあるなどと本気では思っていないらしい。
「そうですよねー。」
とあっさり言った。
由梨はそれよりも"相当乱れたものだった"という部分に引っかかりを感じた。
(まだ本当に結婚するかどうかもわからないのに…馬鹿みたい。)
由梨は慌ててその引っかかりを振り切るように首を振った。