この雪の下で春を待つ

あまりに簡潔に告げられた言葉に、ジーンは呆然とする。ダイは、話は終わったと言わんばかりに戸を閉めようとしたが、その戸を閉じさせまいと我に返ったジーンが戸を掴んだ。

「せめて診察をっ!頼む、娘を助けてくれ」

「しつこいぞ!診察なんてしたら、ここに来た連中全員チフスに罹っちまうじゃねぇか!衣類や寝具、シラミやダニがわく危険のあるものは全部70度以上の熱気に30分以上通せ。そうすればダニたちは死滅する。あとは梅のジャムかハブ草だ。何もしないよりましなはずさ。とにかく、俺に出来ることは何もない。後は自分たちで何とかしな」

今度こそ話は終わったと、ダイはジーンの手を離しドアを閉める。

ジーンは、歯を噛みしめ娘を抱きしめた。妻は絶望し、泣き叫んでいる。

そんな彼らの元へ駆けつけたのは、同じようにチフスへの感染者を抱えた老若男女の先住民。

そんな彼らに降り注ぐ、悪魔の大宣言。一瞬でエリア00を包んだのは、絶望と死に対する恐怖。

この日、60人の先住民たちのうち、10名のチフスへの感染が認められた…。
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