この雪の下で春を待つ

「…アンジュがチフスに罹った」

つぶやきのような一言がリークを引き留めた。振り返れば、ジーンはじっとうつむいたまま魂が抜け落ちた顔をしていた。

「薬がないんだ…このままじゃアンジュは死んでしまう」

「っそ、ご愁傷様」

軽々しい返答に、ジーンは勢いよく顔を上げた。その目は怒りに染まっている。

「ご愁傷様だと!?まだ1歳にもなってないんだぞ、そんな子供の命を…」

「お前らは散々見捨ててきたじゃん。何、孤児は生きてないの?孤児は親がいない、居場所がないってだけで人間にもなれねぇのかよ!!」

リークの怒気に再びジーンは飲まれる。怒りを露わにしたリークはジーンを見下したまま、口を開く。

「孤児は死んでも仕方ないのに、自分の娘は死んだらダメだって?そんな我が儘誰も聞きやしないさ。俺たちは自分の身を守って生きる。それが出来ねぇ奴はおとなしくこの雪に埋もれるんだ。それが俺たちのルール。同じ場所で生きてるってのにこの違いは何だろうな?」
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