この雪の下で春を待つ
5.儚い約束
キーキーと金属と鉄が擦り合う嫌な音が部屋に満ちる。
フーはリークの手元を覗きながらも耳から両手を離さなかった。
リークは古い本に書かれた紋章を食い入るように見つめながら、透明なガラスのコップにそれを描く。
リークの必死さが伝わったのか、フーは前日まで外で遊びたいと癇癪を起していたのが嘘のようにおとなしく、リークの邪魔をしないように手元を覗いていた。
「リーク、お日様…」
「うん…ごめん、ロウソクに火つけて」
そう言いながらも手は休めない。約束の日まであと1日しかない。
あらかた仕上がったが、明日の日が昇っているうちに動くとなると今夜中に仕上げなければならない。
初めてだった。装飾ではなく、まじないを描くのは。知識なんてない。そもそもまじないを信じているわけじゃない。
それでも、命を託されたのだ。こんな孤児に自分たちよりずっといい環境にいる奴に頼まれてしまったのだ。
それが自慢げでもあり、滑稽でもあった。