この雪の下で春を待つ
それから更に3日後、リークはジーンの家を訪ねた。約束の日より3日早いことにジーンは驚いた様子で、リークを家の玄関先に入れる。
「随分早いんだな」
「まあね、ここの冬は寒すぎるんだよ」
暗に外に出ていないと言っているようなリークに、ジーンもそうだなと軽く相槌をうった。
だが、そう言いつつも布に包まれた花瓶を取り出している。
何の飾り気のなかった花瓶はすっかり面影を失くしている。ガラスにつけられた傷は見事に花を形作り、その花の中心には「Ange」と刻まれている。フランス語で天使を意味する単語だ。
ジーンは予想以上の出来栄えに少々目を見張る。リークは乱雑に髪をかいてジーンを見上げた。
「それで、出来栄えはどうなんだよ」
「…お前、盗人じゃなくてこっちを専門にしろよ。勿体ねぇな」
「余計な世話だ。大体、お前らが勝手に依頼してくるからこっちだってやってるんだよ」