この雪の下で春を待つ
一体どうしたのか、普段なら気にも留めないだろうがどうしても気になって家の壁に背中を預けている孤児にそっと近づく。
「た…ああ…と……」
何かを伝えようとしているのか、言葉を発するもののそれは意味とならずに漏れるだけ。
それも違和感を感じる漏れ方だ。麻痺してうまく話せない。そんな声だ。
孤児の手を見てみると、一口だけかじったパンがある。
それを手に取って匂いを嗅いでみると、異臭が漂った。腐っているのか…それとも…。
パンをほんの少しだけちぎって口へ入れる。すると、パンに触れた舌に電気が走ったような感覚に襲われる。
驚くよりも先に、体は急いでわずかなパンを吐き出して近くにあった雪を口に入れて水となったそれを吐き出す。
それを2、3回繰り返したところでようやく口の中の痺れが消えた。