この雪の下で春を待つ
「フー、お母さんは死んでるんだよ」
「…し?」
「…埋めてあげようよ。お墓を造って、時々会いに来てお祈りしよう」
フーは死を知らなかった。
だから、自分の言うことも全く分からなかったんだと思う。それでもフーは嫌だと言わなかった。涙を拭いて、しっかり立った。
「まんま、ねんね?」
「うん、でも先に穴を掘らなくちゃ。フー、出来る?」
頷いたフーを連れて洞窟を出る。他に場所も思い浮かばずに、2人は洞窟の前に穴を掘った。
道具もない状態で懸命に土をかき、穴を掘った。爪の中に土が入り込んで、血が溢れても手を休めることはしなかった。
とっくに日が暮れて、数時間経った後に、ようやくオオカミを埋められるほどの穴を掘り上げた2人は、洞窟内にいる、オオカミをその穴まで運び土をかけて埋めた。
近くにあった人の顔ほどの大きさのある石を持ってきて、オオカミを埋めた場所に置く。
簡素で、そこにオオカミが埋まっているとは思えないような墓。
それでも、そこは確かに墓だった。
すべてが終わった時にはすでに辺りは闇に支配されていて、今から山を下るのは危険だと言うフーの言葉に、2人は洞窟で一晩を明かすことにした。