この雪の下で春を待つ
ジーンは体中から血の気が去って行くのを感じた。
毎日風呂には入っていたし、服だって洗濯を欠かしていない。それなのに、シラミかダニがこの小さな体に毒気を吐いたのだ。
感染はもう、先住人たちの間に広がっている…。
「とにかく、ダイのところに行こう。コートを持ってくるんだ」
「は…はい…」
泣き崩れそうな妻を支えて、娘を受け取ると小さな体を自分のコートの中に入れる。
自分のコートを持って戻ってきた妻を連れて、ジーンは雪が舞い始めた道を急ぐ。
5分も経たずにダイの家にたどり着くと、固く閉じられたその戸をいつの日かと同じように無遠慮に叩く。
「ダイ、俺だ。ジーンだ!娘がチフスに罹ったようなんだ。開けてくれ!!」
がんがんと戸を殴るように叩き続けると、仏頂面のダイが迷惑そうな顔を出す。
「ダイ、娘を…」
「薬はない」
「な…なんだって…?」
「薬はないと言っているんだ。他の奴にもそう知らせろ」