リリカルな恋人たち
閉じた口をじんわりと緩めて、はにかむように笑う。

……それ、優しくしたわけじゃなくって。ただ単にわたしがいい加減でものぐさだから、書き直すのが面倒だっただけ、かと。


「加瀬くん、思い出補整しすぎ」
「そんなことない! いつもたくさん本読んでるね、とか言ってくれたじゃん!」
「それはわたしが図書委員だったから、返却期限を守って欲しかっただけで」
「へっ? あ、あと! いつも勉強頑張ってて、テストの点も高くてすごいね、とか……!」
「まあ、あわよくば勉強教えてくれないかなとは思ったよね。あとは純粋に、自分とは違う世界の生物と思ってすごいなと。だって加瀬くん、そのくらい頭良かったから」
「え、ええっ!」


大げさに驚いて、オロオロと落ち着きを失い始めた加瀬くんを見て、わたしはふっと笑う。

照れを捨てて、真っ直ぐに見つめる。


「でもま、今は……。加瀬くんが元気で、よかった。そうだな。なんか、うれしいよ?」


半疑問系の、素直じゃないわたしの言葉に、加瀬くんはみるみるうちに明るい表情になってゆく。


「僕も再会できて、すごくうれしい」


真横からわたしを抱きすくめ、加瀬くんはわたしの肩に顔を埋めてマーキングするみたいにクンクンと鼻を擦る。


「やばい、もう反応してきた」
「報告しなくていいから」


食い気味に言うと、とたんに耳がしゅんと垂れたように錯覚して見えた。
わたし、なんだか加瀬くんのこと大型犬に見えてる……。


「加瀬くん、手のひらぎゅーしてよ」


すこしだけ笑いを帯びた声で言うと、加瀬くんはハテナな顔でわたしを見た。


「ん? むしろ僕は僕の僕を友ちゃんの手のひらでぎゅーってしてほしいんだけど。ほら、こないだ二度目のホテルで乱れて焼きそばをアレしてこうしたときみたいに」
「は? 焼きそばを隠語みたいに使うな」


間髪入れずに目をすがめると加瀬くんはわざとらしく両目を潤ませた。
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