リリカルな恋人たち
ドアにへばりついて部屋のなかを覗くと、丸川さんは怖い顔で加瀬くんを睨んでいる。
寝不足でボサボサの加瀬くんは、かなり消耗した様子でよれよれしている。
「わざわざ取りに来なくても、これからデータ送るとこだったのに」
「打ち合わせもしたかったし、シュウの顔も見たかったしね」
「そんなん、別に今日じゃなくてもいいだろ?」
憮然とした言い方をして椅子の背もたれに深く体を預け、うーんと背伸びした加瀬くんは、ちらりとわたしの方を見て、息を吹き返したようにシャキッと立ち上がった。
「友ちゃん! 待たせてごめんね」
「その態度の違いっぷりよ」
丸川さんが冷たい声で呟く。
「あ、紹介するね! こちら、僕の担当の編集者。丸山志穂さん」
「さきほどご挨拶したわ」
すんとした顔で、丸川さんはわたしを見る。
わたしは名乗ったけど、こっちの方はまだよ、みたいな。
「あ、申し遅れました。雨宮 友と申します」
「僕の婚約者」
加瀬くんがわたしの元まで来て、柔らかい表情でそう紹介した矢先、丸川さんの目つきがより鋭くなった。
「シュウの、婚約者……?」
「悪いけど打ち合わせはまた今度ってことにしてもらえない? 急いでるわけじゃないんだろ?」
なんだか、見るものに身震いを起こさせるような面差しだった。
加瀬くんは、なにも感じないのだろうか?
「延岡くんたちまだだよね? 僕急いで旅行の準備するから、もうちょい待ってて! ごめん!」
ぱちん、と鼻の前で両手を合わせ、加瀬くんはバタバタとクローゼットを開けて下着やらなにやら詰め始める。
「う、うん……」
加瀬くん……気づかないの?
この、嫉妬に満ちた丸川さんの表情に。
「……じゃああたし、また来るわね」
低い声でそう言って彼女は、加瀬くんの部屋を出た。
とても親密そうな関係に見える。
砕けた口調で気兼ねなくなんでも話し、同じ目標に向かう仕事仲間? っていうよりは。
忙しい彼の部屋から渋々帰る、彼女って感じ……?
寝不足でボサボサの加瀬くんは、かなり消耗した様子でよれよれしている。
「わざわざ取りに来なくても、これからデータ送るとこだったのに」
「打ち合わせもしたかったし、シュウの顔も見たかったしね」
「そんなん、別に今日じゃなくてもいいだろ?」
憮然とした言い方をして椅子の背もたれに深く体を預け、うーんと背伸びした加瀬くんは、ちらりとわたしの方を見て、息を吹き返したようにシャキッと立ち上がった。
「友ちゃん! 待たせてごめんね」
「その態度の違いっぷりよ」
丸川さんが冷たい声で呟く。
「あ、紹介するね! こちら、僕の担当の編集者。丸山志穂さん」
「さきほどご挨拶したわ」
すんとした顔で、丸川さんはわたしを見る。
わたしは名乗ったけど、こっちの方はまだよ、みたいな。
「あ、申し遅れました。雨宮 友と申します」
「僕の婚約者」
加瀬くんがわたしの元まで来て、柔らかい表情でそう紹介した矢先、丸川さんの目つきがより鋭くなった。
「シュウの、婚約者……?」
「悪いけど打ち合わせはまた今度ってことにしてもらえない? 急いでるわけじゃないんだろ?」
なんだか、見るものに身震いを起こさせるような面差しだった。
加瀬くんは、なにも感じないのだろうか?
「延岡くんたちまだだよね? 僕急いで旅行の準備するから、もうちょい待ってて! ごめん!」
ぱちん、と鼻の前で両手を合わせ、加瀬くんはバタバタとクローゼットを開けて下着やらなにやら詰め始める。
「う、うん……」
加瀬くん……気づかないの?
この、嫉妬に満ちた丸川さんの表情に。
「……じゃああたし、また来るわね」
低い声でそう言って彼女は、加瀬くんの部屋を出た。
とても親密そうな関係に見える。
砕けた口調で気兼ねなくなんでも話し、同じ目標に向かう仕事仲間? っていうよりは。
忙しい彼の部屋から渋々帰る、彼女って感じ……?