リリカルな恋人たち
まだ抱きしめる格好で、わたしの背中を支えたままぽりっと頭を掻いた男は、まつげを伏せてふっと柔らかく微笑んだ。


「そんな可愛い顔されると、見境つかなくなりそうだなぁ」


その悠長な声とは裏腹に、わたしの背中をベッドにずんずん追いやって、組み敷いて馬乗りになって。

その勢いに気圧された。
可視化されるほど息が白くもくもくと荒ぶっていて、早速オスの面が見れて、しかも外見がかなり美しいからとても迫力があって、わたしは全身が脈打つようにドキドキしていた。

彼は舌や指で、胸の膨らみに飽きるくらい触れたり、ぷっくり膨れて熱くなった部分をいじったりと、とにかく縦横無尽に時間をかけて丁寧に愛撫した。

お陰でじゅうぶんすぎるくらい濡れたわたしのなかに入ってくる頃には、もう、意識が朦朧としていた。
太ももからつま先まで何度も力んだから、筋肉が疲労していて変な格好をすると足がつりそうだった。


「痛くない?」
「う……っん……」


スローなペースで動きながら、相手は大丈夫? とかわたしを終始気遣ってくれた。
ほんとうは強すぎて痛かったり、そこじゃないんだよなって思うときもあるんだけども、この人とならなぜだかおうとつが組み合うように、動くたびにぴったりと吸い付く。


「気持ちいい、そこ……」


行きずりだから、醜態もあまり気になんない。


「あっ……んっ」


あたってこすれる部分を、ピンポイントで攻めてくる。


「エロい声。興奮する」
「言葉攻め好き、とか?」
「そういうんじゃないんだけど」


息を乱しながら、男は熱っぽい吐息を交ぜて言った。


「普段と、違うことしたいの?」


わたしが聞くと、ぴたりと動きを止めた相手は、切なげに目をすがめた。
わたしの顔を撫でるように優しく触れ、困った風に眉を下降させる。

行きずりの相手だからこそできるっていうか。そういう個性的な行為を望んでるのかと思ったんだけど。
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