リリカルな恋人たち
「友さ、どうして帰っちゃったの? 寂しかったよ」


パクリと大口を開けてハンバーガーにかぶりついたわたしを、知世は深刻な顔で見た。


「いやいや、寂しくはなかったでしょう、奥さん。新婚さんなんだから」
「ううん、ほんとうに。謙介も、すごく残念がってた。友がいないから」


二口目をむしゃむしゃ咀嚼している間、無言になった。

知世の夫、延岡謙介(のべおかけんすけ)は、わたしの中学の同級生。
仲が良く定期的に飲んでいて、あるときその場に知世を誘ったら、トントン拍子でふたりはくっついた。
わたしは恋のキューピットってやつだ。

出会って数ヶ月でトントン拍子で結婚しましたーって話、たまに耳にするけどほんとうにあるんだなって思った。

左手に描かれた線の濃さや長さなど毛頭気にも止めていない人は、きっと、そこにトントン拍子線があることにすら気づいていないんだろうなぁ。
まあ、トントン拍子線というものが実在すればの話だけれど。

休憩時間終了が差し迫った知世が店に戻ってって、取り残されたわたしはハンバーガーを食べ終わった手をおしぼりでしっかり拭き、さっき購入した雑誌を紙袋から取り出した。

そして、〝今月の注目作家〟のページを今一度開く。

今度は先ほどよりは落ち着いていたので、目ん玉ビヨーン状態にはならなかったが、そこに写っているのはたしかに、焼きそば男だった。

先日遭遇したときのようなスーツ姿ではなく、シンプルな白いシャツをラフに着こなしていた。
長めの茶色がかった髪は軽くうねっていて、顔つきはとても綺麗に整ってる。

すっきりとした輪郭も鼻の高さも形のいい唇も、肌の白さも爽やかな笑顔も総じて隣のページの、実写化したドラマに出演する俳優さんにすこしも見劣りしない容姿。

新進気鋭のその作家の名前は〝矢郷シュウ〟。
主に恋愛にミステリー要素が加わった話を書いている。

どっかで見たことある、って……思ったんだよなぁ。
< 9 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop