マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
『三か月一緒に暮らしてみて、君から『高柳は仕事ばかりで結婚生活には向いていない』と遠山夫人に報告してほしい』

『え?』

『ここ最近似たような案件が多くて正直面倒だと思っていた』

“案件”とは見合いのことだろう。
男性にとっての適齢期を迎えた彼の所には、あらゆるところから見合いや紹介が舞い込むことはすぐに察せられた。

『遠山本部長にはとてもお世話になっているから、こちらから無下にすることは出来ない。君と会ったあの日は何も聞かされていなかったが、翌日電話で少しだけ君の事情を聞いたよ。ご両親を亡くされていて他に頼れる人がいないと』

そう語る彼の瞳はピクリとも緩まないが、その声色からこちらを慮る気配が伝わってくる。
私は黙って頷いた。

『停電中の君を助けることで本部長へ恩返しが出来るならそれに越したことはない。その上君から『結婚不適合』だと言って貰えれば、これ以上俺の所に余計な勧めが来ることはないだろう』

要は、停電で行くあてのない私を助ける代わりに、三か月間一緒に暮らして自分は結婚に向かないことを証言して欲しい、ということ。

そういうことか、と彼の言い分に納得した。でも、そう言われても男性との同居なんて私にはハードルが高すぎる。

『そんなの無理です』

そう言うために口を開こうとしたが、彼の言葉の方が早かった。

『君は遠山ご夫妻にいつまでも気に病ませたいのか?』

『っ、そんなわけ、』

『じゃあ彼らを安心させるためにも、俺の案に乗るべきだろう』

反論の言葉が出なかった。


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