マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

「青水の枝豆もこれで終わりだ」

あの日私の冷蔵庫に入っていた三袋もの冷凍枝豆を保冷バッグに入れ持ち帰った高柳さんは、解凍しかけのそれを自宅の冷蔵庫に収め、せっせと枝豆料理をあれこれと振る舞ってくれた。

「わさびのやつ、美味しかったです」

「ああ、わさび漬け。あれは簡単だ」

解凍してそのまま食べるという選択肢以外に、こんなに調理方法があるのかと感心するほど、彼の料理は多彩だ。
枝豆キッシュ、コロッケ、かき揚げ――
フードプロセッサーが登場してスープが作られた日には、もうただただ感動するしかなかった。

「あと枝豆ペペロンチーノは外せません。また枝豆買っておきます」

「……しばらくはいい」

低い声が返ってきた。

一緒に暮らし始めて一週間。彼との暮らしのペースが少し見えて来て、最初の頃は緊張しっぱなしだった私も、その糸を少しずつ緩められるようになってきた。

表情があまり動かないのは相変わらずだけど、それでも職場で見る他者を寄せ付けないような鋼の鎧は無く、口調や物腰が柔らかくなることからプライベートな空間で気を緩めているのが伝わってくる。

ここにいる彼は “鉄壁上司”ではない。

そう気付いたら、私も少しだけ肩の力を抜くことが出来た。


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