マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~


会議室のセッティングと事前打ち合せを終えると昼休憩となる。
会議は午後一番からで、早く到着する担当者もいるだろうから一時からは受付に人を配置している。受付人員は総務に応援を頼んであるが、企画のメイン担当者である私達三人は今日は交代で休憩を取ることになっていた。

大澤さん、幾見君の順で最後に休憩が回って来た私は、一人会社の外へと足を向けた。

ビルから一歩外に出ると気持ちの良いくらいの快晴で、秋の乾いた風がスカートの裾を揺らす。肌に当たる陽射しはまだ夏の余韻を思わせる。
社屋のある敷地は広く、別棟には研究所も備え付けてある。私は中庭にある木陰の下のベンチに腰を下ろした。

大きく息を吸い込み、ふぅ~っと長めに息を吐く。

さっき受けた衝撃と動揺と、会議前の緊張で硬くなっていた体から意識的に力を抜いた。

(さっき言われたことは一旦忘れよう。他のことを考えていたらきっと会議でミスしてしまうわ)

青空を見上げながら、自分に言い聞かせる。

(お昼、ちゃんと食べよう。お腹の音をマイクが拾ったら恥ずかしすぎるしね)

もし本当にそうなったら、恥ずかしすぎて終わる。

想像に震えながらも、持ってきていたミニトートの中から弁当を取り出した。
膝の上で広げた包みの上乗った弁当箱を開くと、彩り豊かなおかずの数々に頬が緩むのが自分でも分かる。

「いただきます」

玉子焼きから箸を着ける。噛んだ瞬間、じゅわっと口の中に出汁の味が広がった。

(ん~っ、今日も絶品!)

心の中で叫ぶ。
初めて食べた時に絶賛して以来、彼は必ずお弁当にこの出汁巻玉子を入れてくれるようになった。

そう、このお弁当を作ったのは高柳さんだ。

きっかけは夕飯のおかずが微妙に余った時のやり取りだった。
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