マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
(全然余り物じゃないのよね、これがまた………)
大事に味わった出汁巻玉子を飲み込んで、次は何を食べようかと一瞬箸を止める。
お弁当の中身をじっと見た。
俵型のおにぎり、肉団子の甘酢あん、蓮根と人参のきんぴら、ブロッコリーの胡麻和え、ミニトマト。もう一つある出汁巻玉子は最後の一口用に取っておく。
『出汁巻玉子が美味しすぎて、最初に食べるか最後に食べるか悩みます』
と言った次の日から、二切れ入れてくれるようになった。
(ほんと、優しい…)
さっき私を動揺させる事案を持って来た上司の顔を思い浮かべて、ふふっと笑う。
肉団子を食べてからおにぎりにかぶりついた時、コツコツという靴音が近付き、私の前でピタリと止まった。
「こんなところでぼっち飯か?」
聞き覚えのある声に顔を上げると、思いがけない人が私を見下ろしていた。
「お、弁当か。うまそうだな」
半身を折り、私の弁当を覗き込んでくるその人は、矢崎隆士。
元恋人だ。