マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

会議室の片付けを大澤さんと幾見君にお願いして、私は会議室から出る。会議後の打ち合せの為、高柳さんに呼ばれていた。

高柳さんももちろん全体会議に参加していたので、会議の中身に関して知っている。会議中に出た質問や課題について、きっと山のような宿題がだされるのだろう。
会議前に聞いた事案のことも思い出され、はぁっとため息が出た。

ミーティングルームへ行くため、階段で降りようと廊下を曲がったところで目に入った人に、思わず足を止める。

「お疲れ」

壁に寄りかかる格好で立っていた彼が、組んでいた腕を解きこちらに手を上げた。

「―――お疲れ様です」

矢崎さんはゆっくりとこちらに歩いてきた。

「すっかりキャリアウーマンが板についたな」

すぐ目の前まで来た矢崎さんに、私は体を一歩下げる。高柳さんよりは低いけれど、私よりも頭一つ分高い彼に、妙な圧迫感を覚えたのだ。
他人同士にしては近い距離間は、あの頃と変わらない。パーソナルスペースが小さいのかも。
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