マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

午後の始業から気付けばあと一時間ほどで定時を迎えようとしていた。
パソコンモニターばかりを見続けていた目を少し休ませようと、窓の外に目を遣る。日暮れ前で空はまだ明るい。

(もうひと頑張り――かしら、ね)

固まった首をほぐす為にぐるりと回してから、明日からの休日前に済ませておきたい業務を片付けるべく、再度キーボードに手を置いた。
―――と、その時

ゴロゴロゴロ―――

一瞬で体が固まった。

慌てて顔を上げるが、窓の外には青空が広がっている。

(曇ってもいないわ……空耳だったの?)

強張っていた体から力を抜き、パソコンモニターに視線を戻す。そのままキーボードを指で叩き始めた時、再びそれは聞こえてきた。

「やだぁ、カミナリ?向こう側が真っ黒!」

後ろ側から聞こえた甲高い声に振り向くと、さっき私が見た方とは反対側の窓から見える空は真っ黒な雲に覆われていた。

ゴロゴロゴロ―――

さっきより短くなった感覚に背筋が凍る。

「ちょっと調べもので席を外します」

立ち上がりながら隣の席の大澤さんに声を掛ける。
「それなら私が」と言う大澤さんに、「大丈夫です。定時が来たらあがって下さいね」と言い残し、震える足に悟られないよう、足早にオフィスを出た。
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