マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
どれくらい経ったのだろう。
そっと体を離され、いつの間にかカミナリが去っていたことに気付く。

高柳さんは、私の頭の上から被せていたジャケットを取り除き、何事も無かったかのように颯爽とそれを羽織る。

私はその一連の動きを、夢から覚めたような頭で呆然と見ていた。

「もう戻れるか?」

そう聞いてきた声は“鉄壁統括”のもので――

「あ…えっと……」

何を返せばいいのか、頭のスイッチが入らない。

「無理そうならもう少し休んでから来たらいい。俺は先に出る」

高柳さんはそう言ってドアの方へ向かう。

「あのっ、高柳さんっ…」

思わずプライベートの時の呼び方が口から出たが、今の私はそのことにすら気付かない。

呼び止められて足を止めた彼が、こちらを振り向く。

「どうした?」

「あの……」

続きを口にしない私を不思議そうに見た彼は、少しの後こちらに戻ってきた。

「どうした?まだ怖いのか?」

体を斜めに傾けて覗き込むように私を見る。長身の彼の顔が近くなって、私の頬がじわっと熱を持った。
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