マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
「いえ、あの…どうして、……ここに?」
「ああ」
私の疑問に納得したのか、彼は涼やかな瞳を少しだけ緩めた。それだけで彼の雰囲気が“上司”から“同居人”へと変化する。
「青水が急いでオフィスから出て行くのを見かけたから。きっとなるべくカミナリが見えない場所に行くだろうと思って。一発でここを当られて良かった」
(わざわざ私を助けに来てくれたってこと?)
そう思ったら、胸の奥がじわじわと熱くなっていく。
「ど、どうしてそこまで……仕事中なのに……」
仕事に私事を持ち込まないのが、彼のポリシーなはずだ。私のカミナリ恐怖症なんて、まったく彼の仕事とは関係ない。
戸惑う私がじっと彼を見つめると、そんな私の視線から逃れるように彼は視線を外した。
「……の……だろ」
「え?」
ぼそぼそと口の中で唱えるような声が聞き取りづらく、思わず聞き返す。
すると逸らしていた瞳が私を捕え、今度ははっきりした声で言った。
「妻を守るのは夫の役目だろう」
聞こえた言葉に目を大きく見開く。一瞬で発火したように全身が熱くなって、その場に立ち竦んだ。
そんな台詞を発した当の本人は、まったく崩れることのない“鉄壁”の無表情。固まっている私をよそに、「先に戻るぞ」と踵を返して、入って来たドアから出て行ってしまった。
ドアが閉められる直前、逆光の中に消えていく彼の耳がかすかに赤く染まっていた気がした。
「ああ」
私の疑問に納得したのか、彼は涼やかな瞳を少しだけ緩めた。それだけで彼の雰囲気が“上司”から“同居人”へと変化する。
「青水が急いでオフィスから出て行くのを見かけたから。きっとなるべくカミナリが見えない場所に行くだろうと思って。一発でここを当られて良かった」
(わざわざ私を助けに来てくれたってこと?)
そう思ったら、胸の奥がじわじわと熱くなっていく。
「ど、どうしてそこまで……仕事中なのに……」
仕事に私事を持ち込まないのが、彼のポリシーなはずだ。私のカミナリ恐怖症なんて、まったく彼の仕事とは関係ない。
戸惑う私がじっと彼を見つめると、そんな私の視線から逃れるように彼は視線を外した。
「……の……だろ」
「え?」
ぼそぼそと口の中で唱えるような声が聞き取りづらく、思わず聞き返す。
すると逸らしていた瞳が私を捕え、今度ははっきりした声で言った。
「妻を守るのは夫の役目だろう」
聞こえた言葉に目を大きく見開く。一瞬で発火したように全身が熱くなって、その場に立ち竦んだ。
そんな台詞を発した当の本人は、まったく崩れることのない“鉄壁”の無表情。固まっている私をよそに、「先に戻るぞ」と踵を返して、入って来たドアから出て行ってしまった。
ドアが閉められる直前、逆光の中に消えていく彼の耳がかすかに赤く染まっていた気がした。