マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

《二》





やっと迎えた休日。今は土曜日の昼下がり。

私が着ているのは汚しても構わないくたびれたスウェットとパンツ。それに薄茶色のウェリントン眼鏡を掛け、髪は無造作な一つ結び。なんともゆるい恰好なのは、今しがた掃除を終えたところだから。

降って湧いた高柳さんとの同居生活も、一か月を過ぎたころから不思議と体に馴染んできた。男性と生活を共にすることに、警戒と緊張の連続だった最初の頃が嘘のようだ。

高柳さんは必要以上に近付いてこない。女性という以前に、私個人に特に興味がないのだろう。

とはいえ、家に二人でいる時に私のことを無視するかと言えばそうでもない。
上の立場から何かを申し付けることもなく、何か聞けば普通に応えてくれるし、何でもない世間話もしたりする。
プライベートの彼の雰囲気は職場よりも柔らかく、大学サークルでの彼を彷彿とさせる。

ただ、家では仕事の話はしない。職場ではプライベートの話をまったくしないように、逆もまた然り。
きっとオンオフをはっきりと区別したいのだろうと、勝手に解釈している。


先週までの休日出勤多発事態を乗り越え、訪れた正真正銘の休日。
疲れの溜まった体をゆっくりと休めた土曜日は、遅めの朝食を取ってから溜まっていた家事をこなした。忙しい平日には細かなところまで手が回らなかったので、久々に念入りに掃除もした。

ソファーの背に体を預け、眼鏡越しに外を見る。
すっきりとした青空の下で秋風に揺れるシーツが清々しい。隅々までしっかりと掃除をした部屋を見回して、私は満足げにふぅっと息をついた。

「お疲れ様」

ソファーの背にもたれていると、後ろからマグカップが出てきた。

「コーヒー淹れたからどうぞ」

「ありがとうございます」

私がマグカップを受け取ると、高柳さんは隣に腰を下ろした。
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