マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
腕と足が小刻みに震える。チョコレートの包みを差し出した両手を、地面と平行にしているのも至難の業だ。

自分の両頬から垂れ下がる三つ編みを、強い北風が揺らして行く。
コートの袖から出た両手が痛いくらい冷たいが、それとは逆に私の顔はあり得ないくらい熱かった。

『ありがとう。気持ちだけ貰っておくな』

しばらくの沈黙の後、いつもより少し固い声が上から降って来て、私はおそるおそる頭を持ち上げた。
ゆっくりと上を見ると、奥二重の瞳と目が合った。

『でも、ごめん。他は貰えない。』

『どうしてですか?高柳さん、今は彼女がいないって聞いています。もしかしてもう恋人が出来ましたか?』

『いや、恋人はいない。』

『じゃあ、お願いします…一回だけでいいんです。私、高柳さんに“初めて”を貰って欲しいんです。責任を取ってくださいとか、彼女にしてくださいとか、面倒なことは言いませんから……』

はっきり断られたのに諦め悪く食い下がった私。
そんな私の台詞に、彼は眉毛をぴくりと跳ね上げた。

『そんなふうに言うもんじゃない』

思いも寄らす怒気を含んだ固い声に、心臓がキュッと縮こまった。
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