マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
(つ、つ、妻!?)
腕の中で驚愕している私など少しも見ることなく、高柳さんは堂本君をじっと見つめている。珍しく不機嫌を隠そうともしていない表情をした彼からは、妙な威圧感すら漂っている。
初対面の相手に対して威嚇するような態度を取ることなどしない人なのに
(どうして――)
緊迫した空気を破ったのは、人好きのする後輩の笑顔だった。
「良かったですね、おーみさん」
「え?」
「はぐれてしまった旦那さんが見つかって」
「え、あ、えっと…」
この人は“旦那さん”ではないのよ、という言葉が頭を過ぎるが、密着した状態の上にさっき高柳さんが『妻』と言った手前もある。
なんて返事をしようとわたわたしていると、腰に回された腕に更にギュッと力が込められ、カッと体が熱くなる。
「偶然ですがお会いできて良かったです」
堂本君はにっこりと微笑み、言葉を続けた。
「おーみさんが大学の頃に増してお綺麗になったのは、素敵な方とご結婚されてたからなんですね」
歯の浮くような褒め言葉に、お世辞だと分かっていても照れてしまう。しかも結婚なんてしていない。
そんなことない、と言おうとしたが、人懐っこい笑顔をした後輩君は「じゃあ僕も人と待ち合わせていますので、これで」と一礼をして去って行った。
腕の中で驚愕している私など少しも見ることなく、高柳さんは堂本君をじっと見つめている。珍しく不機嫌を隠そうともしていない表情をした彼からは、妙な威圧感すら漂っている。
初対面の相手に対して威嚇するような態度を取ることなどしない人なのに
(どうして――)
緊迫した空気を破ったのは、人好きのする後輩の笑顔だった。
「良かったですね、おーみさん」
「え?」
「はぐれてしまった旦那さんが見つかって」
「え、あ、えっと…」
この人は“旦那さん”ではないのよ、という言葉が頭を過ぎるが、密着した状態の上にさっき高柳さんが『妻』と言った手前もある。
なんて返事をしようとわたわたしていると、腰に回された腕に更にギュッと力が込められ、カッと体が熱くなる。
「偶然ですがお会いできて良かったです」
堂本君はにっこりと微笑み、言葉を続けた。
「おーみさんが大学の頃に増してお綺麗になったのは、素敵な方とご結婚されてたからなんですね」
歯の浮くような褒め言葉に、お世辞だと分かっていても照れてしまう。しかも結婚なんてしていない。
そんなことない、と言おうとしたが、人懐っこい笑顔をした後輩君は「じゃあ僕も人と待ち合わせていますので、これで」と一礼をして去って行った。