マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
こんな私の過去なんて、彼にとってはどうでも良い情報だろうと思うが、どうせ知られてしまっているなら、はっきりと自分の口で告げた方がいい。

「が、すぐに振られてしまいました。私は“ハリボテ女”らしいので」

私がそう言うと、高柳さんは細めていた瞳を軽く見開いた。

「それと堂本君はだたの後輩です。付き合っていません」

一旦息を短く吐くと、私は残りの言葉を一気に口にした。

「大学の時に初恋の人に振られて以降、入社後に矢崎さんと付き合うまで誰ともお付き合いしたことがありませんでした。そんな私は矢崎さんにとって期待外れだったのでしょう。外見はそれなりに社会人として恥ずかしくない程度に整えましたが、この年で大人の付き合いも出来ない私は『見かけ倒しのハリボテ女』というわけです」

高柳さんから目を逸らさず一気に喋りきって、ふぅっと息をつく。
言ってしまった後からじわじわと羞恥がせり上がって来て、俯いて膝の上で両手をぎゅっと握りしめた。

「―――そうか」

振って来た声をただ黙って聞く。
彼の声色から険が取れたような気がしたけれど、その表情を確かめるために顔を上げることは出来そうにない。

(今更……幻滅されるほど興味を持たれていたわけではないし……)

そう思うのに、どうしても高柳さんの反応が気になってしまう。

(顔の赤さ、早く治まって!)

そう心の中で叫んだ時、頭に何か温かなものが触れた。
大きな掌とは違う、湿り気のある小さな温もり―――

それに該当するものが思い浮かんだ瞬間、一瞬で爆発したみたいに体全部が熱くなった。
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