マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
「ばかだな」
下を向いて固まっていると、その言葉は降って来た。
(ああ、やっぱり……)
じわじわと瞼が熱く湿ってくる。
「いい大人なのに…馬鹿みたいですよね…私……」
キュッと唇を噛みしめると、私の頭の後ろ側を大きな手がゆっくりと撫でた。
「馬鹿なのは矢崎だ」
ゆっくりと顔を上げる。
そっと優しく髪を往復する手。それと同じくらい優しい瞳をした高柳さんが私を見つめていた。
「青水は見かけ倒しでもハリボテ女でもない。そのままで十分魅力的だ」
「…………」
「会社で凛としている時もいいが、家での抜けたところは――面白い」
「おもっ!」
初めて言われた言葉にびっくりした。
『面白い』というのは褒め言葉なのかどうか微妙だけれど、そう言った本人が柔らかく瞳を細めているので、前向きに捉えることにする。
「『この年で大人の付き合いも出来ない』と青水は言ったが、何も問題はない」
一旦言葉を切った高柳さんは、私の目を見てきっぱりとそう言い切った。そして一ミリも表情を変えることなく口だけを開く。