マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
「あお…み……」

ぎゅっと瞳を閉じて涙をこぼす私に、低く掠れた声が聞こえてきた。

「すまない……泣かせるつもりじゃなかった」

頬を拭う指は壊れ物を扱うように優しい。
私はおそるおそる瞼を上げた。

そこにはさっきまでの獰猛な色香を纏った姿はなく、困ったように私を見下ろしている高柳さんがいた。

「青水の嫌がることはしないと約束したのに……本当に悪かった」

ふわり、溢れる涙ごと私の頬を大きな両手が包み込む。
そしてそのまま、こつん、と額を合わせた。

「らしくなく、焦ってしまった……一か月後、俺との“模擬結婚生活”が終わったら、お前が他のやつの所に行ってしまうんだ、と」

そうだ。彼との約束の期限はもう一か月後に迫っている。

「い、いきま…せん……」

ぐずぐずと鼻を鳴らしながらそう言うと、高柳さんはほんの少し目元を緩める。

「幾見のところへも?」

コクン、と頭を倒す。

「もう無理矢理こんなことしない。だからまだ俺の奥さんでいてくれるか?」

甘く懇願するように問われ、私は何も考えずにもう一度頭を振った。

「今度からちゃんと聞くことにする」

(えっ?)

「キス…してもいいか?」
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