マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
両目をこぼれんばかりに見開いた。
額同士を付けたまま超至近距離でそう聞いてきた彼の瞳が甘い。

最近では仕事の時ですら彼の感情が分かるようになってきた。家ではもう全然違うくらいに分かる。
だから、今冗談を言っているわけではないことは明白で。そもそもこんなたちの悪い冗談を言う人でもない。

『ヨシ』と号令がかかるのを待つ忠犬のように、彼が私の答えをじっと待っているのが伝わって来て、私の頭の中はにわかに忙しくなりはじめる。

(ど、どうしたら!?「いいです」って言ったらいいの?ていうか、これ!ファーストキス!?)

七年前にあげ損ねたファーストキスを、今ここでその本人に差し出す時が来たのか――
そんな思いが頭を過ぎった。そして同時に思い出した。

『俺は付き合っている子としかそういうことはしない』

そう言って彼は私の告白を断った。

そして

『自分を大事にしない子は嫌いだ』

そう叱ったのだ。
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