マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

シャワーを浴びた後作って貰った朝食を食べ、いつものように高柳さんの作った弁当を持って出勤した。
職場に着くとすぐに幾見君が寄ってきて『あれから大丈夫でしたか?』と心配してくれたので、『大丈夫』と『ありがとう』を彼に伝えた。

その日からなぜか幾見君が帰りは必ず駅まで私を送ってくれるようになった。
何度も『大丈夫』と断ったが、彼にとっては遠回りのはずなのに『せめて最寄駅まで』と送ってくれる。

三日間幾見君に甘えてしまったけれどちょうど週末だからもう来週からは断ろうと思っていたら、高柳さんが帰ってきた。
そして翌週からは、高柳さんの車で行き帰りするようになった。

それこそ周りに見られたらどんな目に合うか恐ろしくて、断固として辞退しようとしたけれど、鬼の鉄壁統括の方が恐ろしく、私は言われるがまま彼の車で通勤するようになった。彼が仕事で一緒に帰れない時は何故か幾見君が駅まで送ってくれて、一体どんな連携プレーなのかと不思議に思っている間に冬季休業に入ったというところだ。


高柳さんはというと、出張に行く以前、いや、あの日より前に戻ったような態度だ。
玄関の出来事などなかったかのような平然としていて、あれから一度もただの同居人の距離を崩さない鉄壁の平常運行中。
私一人、彼と顔を合わせるのをドキドキして緊張していたのが馬鹿みたいだ。

(『なかったことに』ってことね!?)

そういうことか、と思った。これが“大人の付き合い”。

(“大人の付き合い”というほどのことなんて、何もなかったじゃない……)

なぜか不貞腐れたような気持ちになりながら、

(それなら私だってちゃんとしなくちゃね)

と、平然とした態度で日常を送ってきた。

本当にドキドキした私が馬鹿みたいだ。




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