マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
何となくこのまま一人部屋にいるのを持て余して、初詣に行くことにした。

マンションを出て歩道をのんびりと歩く。この辺りはやけに静かだ。住宅やマンションの多く、正月の独特のまったりとした空気が流れている。

しばらく歩いていると、神社ののぼりが見えた。入口にある神社の成り立ちを読むと、意外と由緒正しいところだったらしい。鳥居の向こう側は露店もあり、多くの参拝客で賑わっていた。

多くは家族連れや恋人同士。複数の友人で来ている人もいる。可愛らしい稚児帯を締めた晴れ着姿の子どもや、華やかな振袖を着た女性達もいて、私みたいに普段着のまま一人で来ている人は目に着かなかった。

(そうだった…この雰囲気が嫌で、初詣には行かなかったんだった……)

毎年三が日を外して参拝していた理由を思い出し、すっかり失念していたことを悔いる。

今日はやめておこうかと踵を返そうとしたが、後ろからやってきた人の波に押されるようにして境内に入ってしまった。

(せっかくここまで来たんだし……)

来てしまった以上さっさと参拝して帰ろうと腹をくくり、手水舎で両手を清めてから参道を進んだ。

時刻は夕刻。どんよりとした空からは今にも氷の粒が落ちてきそうなほど風が冷たいけれど、参道には人がごった返していて少しずつしか進まない。私は着ていたダウンコートのファスナーをきちんと上まで閉じて、人の流れに従って一歩ずつ足を進めていた。

あと少しで自分の番、というその時。人の群れのその向こう側に、背の高い後ろ姿が目に入った。
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