マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
(高柳さん!?)
実家に帰った彼がこんな所にいるはずもない。
あれほど長身の人は周りにおらず、人ごみの向こうに飛び出た頭は彼とそっくりだ。
その人はちょうど授与所の前でお守りか何かを見ている。
大声で呼べば届くかもしれない距離。
拝殿はすぐ目の前だというのに、私は列からスルリと抜け出した。
長身の後姿に向かって小走りで近付く。
あと十歩、と言う時、その人が横を向いた。
(高柳さんだ!)
それは間違いなく高柳さんで。
分かった途端、あんなに寒々としていた心の中が嘘のように温かくなっていく。
私は彼を呼ぼうと口を開いた。が、出かかった声を飲み込んだ。
彼がすぐ隣の着物の女性に笑顔を向けていたからだ。
滅多に見ることの出来ない大きな笑顔。
普段は表情に乏しい彼にあんな素敵な笑顔を向けられて、陥落しない女性がいたら見てみたい。
それほどまでに今の彼の笑顔は蕩けてしまいそうなほど輝いていて、しかもその瞳は柔らかく温かい。
二人の間にある親密な空気が伝わって来て、隣の女性が彼にとって大事な人なのだと、離れていても分かった。
胃の中が鉛を入れられたように重くなって、もう何も見たくないと踵を返そうとした時、高柳さんが何か喋っている声が耳に届いた。
「―――ゆきちゃん」
確かに彼はその人のことをそう呼んだ。
実家に帰った彼がこんな所にいるはずもない。
あれほど長身の人は周りにおらず、人ごみの向こうに飛び出た頭は彼とそっくりだ。
その人はちょうど授与所の前でお守りか何かを見ている。
大声で呼べば届くかもしれない距離。
拝殿はすぐ目の前だというのに、私は列からスルリと抜け出した。
長身の後姿に向かって小走りで近付く。
あと十歩、と言う時、その人が横を向いた。
(高柳さんだ!)
それは間違いなく高柳さんで。
分かった途端、あんなに寒々としていた心の中が嘘のように温かくなっていく。
私は彼を呼ぼうと口を開いた。が、出かかった声を飲み込んだ。
彼がすぐ隣の着物の女性に笑顔を向けていたからだ。
滅多に見ることの出来ない大きな笑顔。
普段は表情に乏しい彼にあんな素敵な笑顔を向けられて、陥落しない女性がいたら見てみたい。
それほどまでに今の彼の笑顔は蕩けてしまいそうなほど輝いていて、しかもその瞳は柔らかく温かい。
二人の間にある親密な空気が伝わって来て、隣の女性が彼にとって大事な人なのだと、離れていても分かった。
胃の中が鉛を入れられたように重くなって、もう何も見たくないと踵を返そうとした時、高柳さんが何か喋っている声が耳に届いた。
「―――ゆきちゃん」
確かに彼はその人のことをそう呼んだ。