マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

《二》





幾見君と別れてからマンションまでの十数分、高柳さんは無言で私の肩を抱き帰路を進んだ。
そうしている間にも、雷鳴が近付いてくる。空が紙に浸み込む墨汁みたいにじわじわと空が暗くなり、同時に頭の中が恐怖に染められていく。

思うように進まない自分の足がもどかしい。

何度目かの雷鳴が轟いた時、私はとうとう耳を塞いでその場にしゃがみ込んでしまった。

「もう少しだから、頑張るんだ」

高柳さんの声が降ってくるが、稲妻が怖くて顔を上げられない。

「青水」

「もう放っておいてっ」

悲鳴のような声が勝手に飛び出た。

高柳さんは私のことを心配してくれるのは分かっている。でも――

(あの女性(ひと)のことは『ゆきちゃん』で、私は『青水』)

瞳に溜まる涙が、カミナリへの恐怖心のせいなのか何なのか分からなくなる。
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