マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
ベッドの中で異性に抱きしめられる。
そんな初めての状況に、心臓は飛び出しそうなくらいに暴れていて、真冬だというのに体中がじっとりと汗ばんでいる。

何時か分からないけれど外は真っ暗で、明かりをつけていないこの部屋も真っ暗。
だから真っ赤になった私の顔を見られる心配はないのだけれど、だからと言って至近距離で見つめ合うようなことなんて出来るはずもなく、彼の腕の中で顔を俯かせるとその胸に顔を埋めるような格好になってしまう。

結局どこに向けたらよいのか分からない顔は、真っ直ぐ彼の喉元辺りに、なんとか固定した。そして出来る限り小さく呼吸する。


「また鳴るかもしれない」

シンと静まり返った部屋に、密やかな声が降る。

あの轟音を思い出して身震いが走る。思わず手近なものをキュッと握ると、大きな手がそっと背中をそっと撫でた。

「カミナリが怖いのは、裕子さんと関係が?」

小さく頷く。

「あの日……母が亡くなった日……」

思い出した途端、体が震えた。
気付かないうちに固く握りしめていた私の手を、そっと彼が両手で包み込んだ。
< 197 / 336 >

この作品をシェア

pagetop