マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

(最初から素直に従えばいいのに、と思われているかしら……)

さっきからずっと、彼は真顔のままだ。
嫌そうな表情をするわけではないけれど、笑顔もない。

(そういえば、今日は一度も笑ったところを見ていないかも……)

彼の顔を見た瞬間から動揺しまくりで記憶もあやふやだけれど、彼が楽しそうに笑っている顔は見ていないと思う。

(あの頃はよく笑う人だったんだけど……)

彼の笑った顔が好きだった。
昔の彼は、楽しいことがあると、顔全体をくしゃっと崩して笑っていた。普段は大人っぽい彼の、少年みたいな笑顔。そのギャップに、私はいつも胸をときめかせていたのだ。

案内されて乗った車の助手席から、チラリと横顔を伺った。あの頃の彼とどうしても比べてしまう自分がいる。

(でもまぁ、初対面の女には笑わない、か……きっとこれきりだしね)

そう自分を納得させると、なぜか少し胸の奥が重くなった。

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