マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
自宅の隣にあるコンビニを指定して、そこで下ろしてもらう話で落ち着き、後は黙って座っていた。
高柳さんの車は国産の一般的なハイブリッド車だ。この車は良くも悪くもとても静かで、さっきから二人で黙ったままの車内は、居心地が良いとは言い難い。
(何か話した方がいいのかしら……)
共通の話題といえば、大学のサークルのことだ。けれど、彼は私のことを覚えていない。今更それを持ち出すのも気が引ける。というよりもあれは私の“黒歴史”で、封印したいくらいのことを、わざわざ自分から掘り返すことは絶対にしたくない。
来る時は快晴だった空に、いつのまにか黒い雲が覆い始めている。それは夕立やスコールを予感させた。
「雨、降り出しそうですね」
当たり障りのない会話。その代名詞のような台詞しか思いつかなかった。