マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

《二》





新年初出社から数日経った木曜日。
私は明日に控えた決起会の準備に追われていた。
新年早々やらないといけない仕事は山のように有り、休み明けのぼんやりとした脳を無理やりにでも動かさない訳にはいかない。

高柳さんの政略結婚の話を耳にしてからというもの、職場でも家でも高柳さんの顔を見る度に胸の奥がズキズキとひどく痛み、それを顔に出さないようにするだけで精一杯だったので、忙しい毎日が正直ありがたいくらいだった。

高柳さんの噂は、休暇明けの噂話ナンバーワンで女子トイレや更衣室などで耳にしない日がないほどだ。
噂を口にする女性達は皆こぞって残念がったり悔しがったりした。けれど最後には必ず「ホールディングスの常務の娘なら勝ち目がない」と口にするのだ。

私は自分がすべき仕事だけに集中することで、胸の奥から湧き上がってくるものに蓋をした。


「ケータリングは明日十五時に搬入です」

「じゃあそれまでに会場のセッティングを完全に終わらせましょう。総務からまた助っ人をお願いしてあるわよね?」

「総務からのヘルプは五名です」

「分かった。明日は頼んだわね、幾見君」

「はい」

幾見君と最終確認をして、今日はこれで退社予定。とはいえ、すでに定時を一時間半も過ぎていた。
大澤さんは明日に備えてすでに退社している。

前日準備はやれるだけやった。すべて本部チームで打ち合せは済んだし、上司である高柳さんからの承認も貰っている。

その高柳さんは、今はここにはいない。
明日の決起会にはホールディングス(うえ)からも上役が出席するので、その打ち合わせに行ったまま、きょうはマーケティング本部(こちら)には戻ってこないようだ。
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