マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

(今日は帰ってくるのかしら……)

一人きりのエレベーターの中で考える。
昨夜帰宅しなかった高柳さんとは、今朝会社(ここ)で顔を合わせた。
当たり前だけど職場でプライベートの話などしない彼からは、朝帰りの理由など聞いていない。

いつも通りの時間にやってきた彼は、シャツやネクタイも前日のものとは別のもので、いつものように皺一つない仕立ての良いスーツをビシッと着こなしていた。

(私が出た後に帰ってきたのかしら……)

私はいつもより早めに出社したけれど、それにしてもよく一旦帰宅して着替えをしてから遅刻せずに来られたと思う。

(もう何も聞かなくてもいいわ……)

最初の約束通り、三か月経つこの週末にあの家を出ようと思う。

よく分からない“模擬結婚生活”から解放されるだけでもう十分。
そもそも私には朝帰りを問い詰める権利はないし、その必要も。

そう思うのに、なぜか額へ触れられた熱が思い出されて胸が痛くなる。

海の底に沈んでいくような感覚に、空気を求めるように大きく息をつくと、ちょうどエレベーターのドアが開いた。
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