マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
真っ暗な室内にブラインドの隙間から稲光が差し込む。
ストロボを焚いたような光に矢崎さんの姿が浮かび上がるが、逆光のせいでその表情までは分からない。

屈むようにして矢崎さんの顔近付いた時、彼の吐く息にアルコールの匂いを感じた。さっきの決起会で飲んのだろう。
逃げるようにサッと顔を背けると、耳元に吐息を感じた。

「お前、昔と違ってアッチの技も上達したんだろ」

「な、」

何を言っているのか意味が分からない。

本社(ここ)で噂を聞いたぞ。女の武器で高柳統括に取り入っているらしいな」

「っ!」

「それにあの幾見、って若いヤツも、随分とお前に躾けられているみたいだな」

根も葉もない噂と酷い言いがかりに、頭がカッとなって言葉が出ない。
「そんなことは全部ウソだ」と言いたいのに、唇がわなわなと震えて声にならない。

「俺はな、青水。自分の行いを後悔したよ」

ねっとりとした声が耳に張り付く。逃げ出したいのに掴まれた手首と壁、そして目の前に塞がるがっしりとした体が邪魔をして、一歩も動けない。

「あの頃のお前を、面倒くさがらずに抱いておけば良かった」

(なにを勝手なことを!)

そう反論したいのに情けないことに声が出ない。震える足で何とかその場に立っているだけで精一杯。
矢崎さんは「俺も若かったな」と呟いて「フフッ」と笑う。

「まあでも…今のお前となら楽しめそうだ」

そう言った声が聞こえたすぐ後、首筋に唇を押し当てられた。

「いやっ!!」

ほとんど悲鳴と同じ拒絶の声は、すぐに大きな手で塞がれた。

逃れようと体を捩るけれど、矢崎さんが足の間に膝を差し込み、体自体を使って私を壁に押し付けるようにしているから身動きが取れない。

首筋に吸いついている生温い感触に全身が粟立った。足元からせり上がってくる恐怖に、足の震えが抑えられない。
吸いつかれている場所に痛みを感じて「ううっ」とうめき声が漏れた。
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