マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
「たすけて、――高柳さんっ!!!」
「おまえっ」
突然の私の叫びに、矢崎さんが焦ったように私の口を塞ぎにかかる。
封じられていた両手が解けたのと同時に、私は思いっきり目の前に手を突き出した。
その手はちょうど矢崎さんの顔面を直撃した。
何も考えずに力いっぱい突き出したものだから、相当痛かったのだろう。悶絶するように顔を抑えて呻いているその隙に、彼と壁の間から抜け出ようと試みる。
あと少しですり抜けられると思ったその時、私の腕は再び矢崎さんに捕えられた。
「っ……やってくれたな……」
怒りの滲んだ声。
掴んだ手で私の腕をギリギリと締め付けられ、痛みに顔が歪む。
「甘くしてりゃ、つけあがりやがってっ……」
怒鳴り声と同時に振り上げられた手に、身を竦ませギュッと目を瞑った。
振り下ろされると覚悟して衝撃に身構えた。
が、一向にそれは訪れず、数秒経ったのちにそっと目を開いた。
私の目に飛び込んできたのは、これまで見たことのないほど恐ろしい顔をした高柳さんだった。